東京古書組合

新刊・古書問わず、多くの書店が集まる谷中・根津・千駄木の通称「谷根千」エリア。
この地域で多くの本好きに愛されるお店、古書ほうろうさんが、古書組合に加入されました。20年目の決断、お店のこと、市場のこと、そして、将来の事をお聞きしました。

 


(左)広報部 樽本樹廣(古書 百年)  (右)古書ほうろう 宮地健太郎
2018年8月24日 古書ほうろうにて 

 

「古書ほうろう」のはじまり


広報■まず、お店のオープンはいつですか?

 

宮地■この店のオープン自体は1998年ですが、その前に別のオーナーの元で、3年くらい同じ場所で働いてました。オーナーのおじさんは古紙回収業が本業で、なので本も集まってくるじゃないですか。それで「古本屋もやりたい」ということになって、縁のあった当時20代の男女が7、8人集められて。その後いろいろあって98年に4人で独立して「古書ほうろう」という名前になりました。

 

広報■店名の由来は?

 

宮地■みんなでどういう名前にしようかと案を出し合って、「ほうろう」という名前はぼくが出しました。小坂忠さんの『ほうろう』っていうレコードが大好きで、そこからとったのですが、広義には「さまよい、さすらう」の「ほうろう」でもあります

 

20年のキャリアと、「今」組合に入ろうと思ったきっかけ


広報■20年のキャリアがあるほうろうさんが、どうして今、組合に入ろうと思ったのでしょうか?。

 

宮地■昔からずっと興味はあって、でも興味と同時に「縁はないな」という気持ちもあって。ぼくたちがここで古本屋を始めた頃は、組合の古本屋さんはもちろん、同業者に一人も知り合いなんていなかったので、そもそも「どうやったら入れるか」もわからないじゃないですか。当時はインターネットもなかったし、経験もなかったから、値段をつける時も「えいやっ!」ってつける、という、のんびりした時代でした。それから少しずつ知り合いも増えていって「その気になれば入れるのかな」って気になったのが2004、5年辺りだったと思います。

 

大きかったのは、中山さん(稲垣書店・荒川区)の店の棚をうちに持って来ちゃいましょう、っていう催しをやったことですね。稲垣書店の映画資料や映画本、ポスターを大量に運んで、二ヶ月ほどここで展示販売をしたんですけど、なんでそういうことになったかというと、すでに休刊しちゃいましたけど『谷中・根津・千駄木』という地域雑誌がありまして、それをちょっと遠いけど稲垣書店でも扱っていたんです。版元である谷根千工房の山崎さんという方が映画好きで、中山さんとも親しくて。で、ちくま文庫で中山さんの本が出たとき、ぼくが店のサイトに書いた感想文を中山さんに見せてくれたり。「組合に入っていない若い古本屋だけど、中山さんのファンで」って紹介してくれて、それがその催しにつながって。期間中何回かイベントをやったのですが、その中の一回が、石神井書林さん、月の輪書林さん、なないろ文庫さんと中山さんがここでしゃべる、っていう会で。

 

広報■黄金メンバーですね。

 

宮地■そうなんですよ! 終わった後に近所の居酒屋で飲んだんですけど、その時、田村さんが「楽しいよ、組合。絶対入った方がいいよ」って言ってくれて。

具体的にどのくらいお金がかかるのか、っていう話も初めて教えてもらったのかな。だから、もしその時に「組合入ります!」って言えば入れてもらえてたと思うんですね、お金のことはともかく。ただ、その頃は四人で店をやっていたし、すべての物事を週に一度会議をして決めていたので、何かをノリで決めるということはあり得なくて。誰かが反対したわけでもないんですけど、でも積極的に「ぜひ入ろうよ!」みたいなところまではいかなかったんですね。

 

ちょうど古本屋を始めて10年ぐらいで、自分たちが売りたいと思うような本もそれなりに入ってくるようになって、本自体は完全に地元の中で回るようになっていたんです。「この町で買ったものを、この町で売っていく」ということにもすごくやりがいというか、意義を感じていたので、そこでわざわざ組合に入らなくても「ぼくたちはここで独立してやっていくからいいんだ。むしろここで回していくことの方が大事なんだ」という気持ちでやっていたわけです。「不忍ブックストリートの一箱古本市」も始まっていろいろワサワサしていたりで、今思うと、その頃が一番売れていたのかな。あとはどんどん売上が下がってきて。2010年に古書信天翁の二人が独立して、完全に夫婦二人になって。今回組合に入ることを割とスパッと決められたのは、二人で決めればいいだけだから、ということだったんですよね。

 

それで「どうして今、組合に?」っていう話なんですけど、一つは本当に、にっちもさっちもいかなくなって、ってところがあって。本の値段はどんどん下がっていくのに、入ってくる本はどんどん増える。そのうえ、店のバックヤードには、10年、15年前に買い取ったまま、もはや自分でも何を買ったか憶えていないような本がたくさん積まれているわけです。今の働き方を続けていたら、これらは絶対に日の目を見ない。日々入ってくる本を整理して出して、それでもなにかしら溜まっていくのに。だから、このままじゃ無理だなっていうのがあって。

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