東京古書組合

新しいお客さんに来てもらえるように


宮地■前に百年さんの司会で会館でやった座談会。じつは加入にあたって結構影響を受けました。特にほん吉さんの、一棚分丸ごと市場に売って、その分仕入れてくるという話は非常にインパクトがあって、「そういうことができるんだ!」ってびっくりしました。ロスパペロテスさんが出られると知って、じゃぁ行かなくちゃ!って軽い気持ちで行ったんですけど、聞いといてよかったです。

 

広報■2016年に古書会館でやったトークイベントに来ていただいた、ということなんですけど、ああいうのはやった方がいいと思いますか?古本屋が発信すること。

 

宮地■ぼくがよく憶えているのは、もう10年以上前になりますけど、会館でトークイベントとか、イベントをたくさんやっていた時期があって。中でも「アンダーグランウンドブックカフェ」なんかは普段、古書会館に来ないような人達を呼ぶ力にはなっていたと思うし、そういうことをあそこでやることにはすごく意味があると思います。ただ、何でもそうだけどそれを「決まり」にしちゃうと、誰かがその担当になって抱え込んでしんどくなっちゃう。だから気楽に、組合員で何かやりたい人があの場を使って「気楽になんでもやっていいんだよ」っていうムードを全員で共有できるようになればいいのかもしれないですね。

 

広報■組合員数を増やすのも大事ですけど、何よりお客さんを増やさなきゃいけないと思っています。それをどうするかっていうのがすごく大事ですよね。

 

宮地■この前機関誌でどなたかが「小・中学生の社会科見学で市場を見せたらいいんじゃないか」って仰っていたんですけど、そういうのはすごくいいと思って。やっぱり未来の担い手云々みたいな話をするんだったら、「こういうおもしろい仕事がある」ということを伝えるのはすごく大事だと思いますね。

 

広報■簡単なものから始めるのがいいなぁと思って。

 

宮地■そうですね。何かを続けるには「気楽にやれる」ということと、「義務にしない」ということがすごく大事だと思います。

 

*****

 

広報■うちの店も12年経って、最初の頃にいたお客さんのライフスタイルなども変わって、ちょっと店から離れちゃうこともあるんですけど、ありますか?

 

宮地■あります。あります、っていうか、どんなに通ってくださった方でも、引っ越されたら足が遠のくっていう大前提があるし、あと、学生時代から死ぬまで「古本命」な人もいるけど、そうじゃなくて「人生のどこか数年間で古本屋に通うのがとてつもなく幸せで大事だった」みたいな人もいるじゃないですか。そういう人が心境の変化で古本屋に行かなくなる、というのも普通にあることだし。お客さんが入れ替わっていくのは残念だけど受け入れています。でも、もちろんずーっと来てくださるお客さまもいらっしゃって、それはすごくうれしいことですけど。

 

広報■新しいお客様に来てもらうような仕掛けはしていますか?

 

宮地■そういうことはほとんど考えてなくて。イベントをするにしても、「これをしたらどうなる?」みたいなことは全然考えてなくって、基本は「自分が今興味があること」や「人との縁」、それだけなので。さっきから何度か言ったかもしれませんが、店主が楽しそうしていることがすごく大事だと思っています。

 

広報■多くの古本屋さんも楽しんでいると思うんですけど、それに売上が伴うかはまた別の問題ですよね。スタンプラリーでお店に行った時に感じたしんどさも、多分お客さんのサイクルがうまくいっていないか、止まっているのかなって思って。そこらへんで何かできることがあるのか、組合の問題じゃないのか。こういう話をアップするだけでも、何か効果があるのかなって願っているんですけど。

 

宮地■それはあると思います。でも何かあるかなぁ・・・。気楽に明るいことがやっぱり言えないなぁ。例えば、樽本さんがご覧になったお店を自分も見ていれば「自分だったらこうするのにな」みたいなことを思うかもしれないんですけど。うちはやっぱり色々なことに恵まれて、多くの人に助けてもらってきたっていう気持ちがすごく大きくて。一般論として何かっていうのはなかなか難しいな、あんま答えになってないですね。

明るくない未来で、どういう明るい未来があるんだろう


広報■明るい未来が見たいな、と思って。

 

宮地■見たいですよねぇ。この前、日月堂さんとお話した時も「明るくない未来で、どういう明るい未来があるんだろう」って話で。これは自戒を込めて言うんですけど、古本屋自身が自分の店での売値を通して、本それ自体の価値を貶めるようなことになっちゃってるじゃないですか?そうしないと売れないから、今、生きていくためにはそのやり方しかないからかもしれないけど、そのやり方には未来がない気がしていて。矛盾しているんだけれど。

たとえば、うちでいいなと思う本をネットで紹介しても、他店のサイトで買われるだけかもしれない。でも「この本はいい本ですよ、こういうところがいいですよ」という、自分には伝えられる、他の人が気付いていないような魅力を伝えていく、そういう心持ちが大事なのではないかと思っていてます。そんなのんきなことをやっていると潰れちゃうかもしれないんですけど。

 

広報■それはすごくよくわかります。もちろん全部の本には出来ないんだけど、いくつかはそうやっていて、それが本を守るということだけじゃなくて、自分をも守るということにもなるのかなと思いますね。安売り合戦とか、そういうことをやりたくて古本屋をやっているわけではないので。

 

宮地■そうですよね。でも、薄利多売で、ひたすら梱包して発送する人たちに「やるな」とも言えないですし。

 

広報■もちろん。

 

宮地■なのでそこは難しいと思うんですけど。今、自分たちがやっていることっていうのは、あまりいいことじゃないなあ、というのはいつも思ってます。だからといって値段をつけるときに一切ネットを見ない時代に戻せるかといったら、その勇気はなかなかないかなあ。

 

広報■難しいですね。2時間もお話を聞かせていただいてありがとうございました。とても有意義でした。


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