東京古書会館で豆本三昧

田中栞


昭和の時代、豆本といえば全国各地に版元があり、蒐集家はそれぞれに会員登録をしてコレクションに励んだものでした。豆本コレクターとしても名高い今井田勲さんの『私の稀覯本』(丸の内 出版、昭和51年)を見ると、みちのく豆本、かながわ豆本、九州豆本、胡蝶豆本、緑の笛豆本など、シリーズで発刊されていたもののほかに、単発でそれぞれに趣向を凝らした豆本が多数作られていたことがわかります。

愛書家が豆本蒐集の道に入るのは、普通サイズの本を買いすぎて置き場所に困り、「小さな本なら、たいして場所を取らないだろう」と、家人への負い目から始めることが多いようです。もっとも、豆本も油断すると数が増え、収納場所が際限なく必要になります。私は何人もの豆本コレクターの家を訪れ、コレクションを見せてもらっていますが、豆本を買いすぎて、自宅の他に、収蔵のためのマンションを借りている人を知っています。

豆本の魅力は、手のひらサイズでありながら、普通サイズの本と比べて遜色ない文学性、そして著名版画家の版画が貼り込まれていたり、思いもよらない凝った造本であったりすることでしょう。

昭和時代からの豆本版元の流れを汲んだシリーズで、いまだ定期的に刊行しているのは、おそらく胡蝶掌本くらいではないかと思われます。そのかわり平成の今は、新しい豆本作家たちの手作り豆本時代が到来しています。

制作手法は、パソコン印刷だけにとどまらず、活版で本文を印刷したり、木版画や銅版画を挿入したり、ちぎり絵やクイリング、メタルエンボッシングの作品を盛り込み、のぞきからくりにポップアップ絵本と、量産本では考えられない趣向を凝らしています。造本は、革装本かがり製本からロングステッチ綴じ、コプト綴じ、折本、和装本に豆巻物まで様々。そして、小さな鳥籠やカメラケース、お出かけバッグや図書カード袋など、思い思いのパッケージにも驚かされます。
昔も今も、豆本の作り手たちは手間と材料を惜しみません。精巧な手わざと華やかな技法で彩られた作品群に、豆本コレクターのおじさまも瀟洒な昭和本を買う古本女子も、魅了されるに違いありません。

というわけで、「古書の日」月間の10月11日(月、祝)、東京古書会館を舞台に、現代の人気豆本作家約40名が腕をふるった豆本を棚に並べて販売する、「豆本カーニバル」を開催します。参加 作家は東京、神奈川、群馬、山梨、長野、京都、大阪、広島、福岡の各地から大集合。 当日は豆本作家本人による展示販売はもちろん、昭和レトロな現役器械で豆本が買える大人気の「豆本がちゃぽん」(1回100円)も設置、先着50名様にはオリジナル豆本キット(田中栞書き下ろし豆本『豆本づくり七転八倒』のキットつき)をプレゼントします。

そして、せっかくなので豆本の展示もします。参加作家の手がけた、凝りに凝った一点ものレア作品豆本(非売品)のほか、田中栞がコレクションしてきた武井武雄刊本作品や未来工房の家具付き豆本、胡蝶豆本やコンノ豆本、ゑぞまめほんや九州豆本などの名作豆本、さらには日本古書通信社のご協力により、こつうまめほんの美しい特装版も展示します。

豆本を作ってみたい人のために、本格ハードカバーの豆本を作るワークショップ(講師/田中栞、要予約)や、赤井都さん新刊の『そのまま豆本』で作るワークショップ(講師/赤井都、要予約)、豆本テーマの簡単豆本ワークショップ(講師/とじ郎倶楽部)も行います。豆本の制作工程がわかる展示コーナー、豆本づくりに役立つカワイイ端紙の安売り(1束100円)もあります。

豆本を買いたい人も作りたい人も、感動的な豆本世界を堪能できる1日です。是非ともお越し下さいますように。





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