「営業と経営から見た筑摩書房」

菊池 明郎


 筑摩書房の代表取締役会長の菊池明郎が、論創社の「出版人に聞く」というシリーズの7冊目として、小田光雄氏のインタビューに答えた本である。

 菊池は新入社員として40年前に筑摩書房に入社以来、ほとんど営業畑で過ごし、1978年には会社が事実上倒産する事態に直面したが、仲間とともに再建にあたり、更生会社を1991年には終結させることとなった。

 本書には高度成長期に全集で発展を遂げた筑摩書房が、なぜあっさり経営破たんに陥ってしまったかという分析がなされている。そして主に営業・経営面でどのような変化を遂げ、会社が再建されたかということが、小田氏の巧みな誘導もあって、分かりやすく書かれている。

 とりわけ出版不況が長引く現在、30数年前の「倒産」から再建に至るプロセスとはいえ、多くの出版社の経営にあたる人たち、そして出版社で働く人たち、さらには出版業界関係者にとって大変役に立つ本である。

 というのも、菊池はほとんどすべてをさらけ出し、恐らくは筑摩書房にとって大切なノウハウに近いようなところまで語っている点が本書の魅力だ。

 筑摩書房のような地味な会社が、菊池が社長在任の12年間でミリオンセラーを2冊も実現したこと自体が驚きだが、丹念に読んでいると、中小出版社がどうやればベストセラーを実現できるかが分かる。ある意味ではそこまで喋らなくてもと思うのだが、菊池は出版界のためにすべてをあけすけに語ってくれたのではないかという気がしてくる。

 本書とともに「筑摩書房 それからの四十年」(永江 朗 筑摩書房)を合わせ読むと、中小出版社の苦闘が非常によく分かるし、同時に現在のような厳しい状況にあっても、何とか出版を継続していけるかもしれないという道筋が見えてくるように思われた。本書は出版関係者必読の書であることは間違いない。



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