『「本屋」は死なない』

石橋 毅史


はじめて書いた本です。
刊行から間もなく2カ月がたちますが、今も「自分が書いたのはこういう本だ」ということを、うまく説明できずにいます。むしろ日を追うごとに、どういう本なんだ? という疑問が大きくなっていくようです。書いたのは他でもない自分なのに、まったく不思議なことです。本を書き、それを人に読まれるということが、これほど謎めいているとは想像もしませんでした。新鮮で、貴重な体験をしています。いつか本を書きたいと考えているかたは、ぜひ挑戦してください。思ったより、いろんなことが起きます。

始まりは、東京の「ひぐらし文庫」という小さな書店の店主が、店を始めたばかりの頃に聞かせてくれた言葉でした。 ≪情熱を捨てられずに始める小さな本屋。それが全国に千店あれば、世の中は変わる≫この言葉をきっかけに、いくつかの「本屋」を訪ねました。新刊書を扱う書店が中心ですが、古書店や図書館、本を活かして地域興しに取り組む人なども登場します。

本を取り巻く状況は、激しく変化しています。歓迎すべき進化もあり、同時に、なにか間違ったことが着々と進行している気配も漂っている。 いちばん伝えたかったことは、それでもなお連綿と受け継がれるものがある、ということです。

問題は山積みだが、未来を楽観することはやめない。 そんな力強さが、出会った「本屋」の人びとにはありました。 タイトルにも採用した、カゴカッコ付きにした「本屋」とは、熱意をもって本を手渡す日々を送っている人、という意味です。人の性格を「彼女は頑張り屋」とか「アイツは照れ屋」などといいますが、それと似たような言い方です。本のなかにも登場する、鳥取・定有堂書店の店主が教えてくれた言葉でした。



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