古本屋が『映画学の道しるべ』を読み解けば 3

稲垣書店 中山信如


 さて一読は済んだ。しかし、それにしても、牧野守という人はなんて不運な人なんだろう。あれだけのエネルギーとパッションをつぎ込み私蔵の資料を使って次々と作り上げた復刻版の反応反響は、少なすぎはしまいか。すでにそれなりに利用されはじめているという海外はさておき、肝心のわが国内でである。すぐに反応があったのは原本を提供する業者側のほうばかりで、学問の発展を受け入れようと思う古本屋は、原本の古書価の値崩れをなげきながらも耐え忍ぶばかりだ。そんなことはいいとしても、牧野や佐藤が本書中や宣伝用リーフレットで繰り返し表明しているように、資料の私蔵はやめ、リプリントしてはパブリックなものとして共有し、新しくやってくるだろう次なる研究者たちに供するという目論見は、はたしてどれだけ進んでいるのだろう。残念ながら私の目には、はなはだ心もとなく映ってならない。

 また各地に点在する大学や図書館や資料館のネットワークはどうか。研究者ならば常日頃気になるところで、「ガクノススメ」でもフィルムセンター、早大演博、日大芸術学部図書館はじめ阪急池田文庫、調布市立図書館など、当店でもお付きあいのある機関に出かけていっては現状をレポートしているが、館同士の情報の交換交流はどこまで進んでいるのか。館ごとの電脳面での進歩は格段に進んでいるとも聞くが、館同士の横のつながりの密度じたいはどうなのか。

 そしてなにより気がかりなのが、牧野が目指した在野とアカデミズムとの架け橋である。とりわけ私も初期に参加させてもらっていた日本映像学会文献資料研究会の破綻を思うにつけ、悲観的な気持にならざるをえないが、研究者たちによる官民一体となっての大同団結は、本当に無理なのか、夢なのか?

 しかし、それにしても、牧野守という人はなんて不運な人なんだろう。四十年にもわたり、想像を絶するようなパワーと信念で風を起こそうと駆けぬけてきたというのに、風は思うように吹いてはくれなかった。人間の感情を一つにまとめるというのは至難の技とはいっても、文字通り満身創痍の牧野の生あるうちに、せめて一条の光だけでも射すところを見せてやれないものか。そのためにも第二第三のマキノマモルが現れいでてこないものか。そしてその時にはわが業界にも、私のように儲け度外視で協力してあげる後継者が、現れいでてくれないものか。

 著者の願いをくみ、連載を一回休んでまでしてブックレビューに挑んでみたが、結局この程度のことしか書けなかった。だが映画史研究の未来に志を抱く若者たちよ、本書の存在を知ったなら、是非とも読んでみるがいい。


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中山信如氏の主な著書
『古本屋「シネブック」漫歩』(ワイズ出版)
『古本屋おやじ』 (ちくま文庫)
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今回は、転載ご了承いただきました、中山信如氏と日本古書通信社様に感謝致します。

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