『タブーの正体!――マスコミが「あのこと」に触れない理由』

川端幹人


 福島原発の事故で明らかになったように、この国のマスメディアは批判することのできない対象、触れることのできない領域を多数抱えています。皇室、同和団体、宗教、検察、それから東京電力のような大手企業……。今回、出版した『タブーの正体!』という新書では、そういったメディアタブーの実態を改めて真正面から検証しようと試みました。

 私自身、2004年に休刊した『噂の真相』というスキャンダル雑誌に22年間在籍し、さまざまなタブーを間近で見てきましたが、今回の作業は新たな発見の連続でした。

 たとえば、皇室タブーについてもそうです。当初は戦前の延長にある封建遺制だろうと思いこんでいたんですが、調べてみると、終戦から1960年代はじめまで、皇室タブーはほとんど存在していなかった。当時は保守ジャーナリズムの牙城である『文藝春秋』に天皇制廃止論や皇居開放論が掲載され、あの石原慎太郎ですら、「皇室は無責任きわまるものだし、日本に何の役にも立たなかった」というコメントを平気で口にしていた。それが、「風流夢譚」事件によって一変し、マスメディアでは皇室批判が一切できなくなってしまったわけです。

 他のタブーについても同様です。検証していくと、そこには必ず物理的な理由、身も蓋もないと感じるほど直接的な原因がある。ところが、今はそのタブーの理由、要因が見えなくなっているんですね。面倒な報道は理由を検証せずに自動的に回避するようになって、もはや報道を封印したメディアの当事者すら、自主規制の理由がわからないという状態に陥っています。その結果、恐怖心はさらに募り、タブーは実体の何倍もの大きさに肥大化している。

 ですから、本書ではまず、この失われたタブーの要因や理由を取り戻すところから始めたいと考えました。自主規制で闇に葬られた事例をふりかえって、どうしてそういう事態が起きたかを追及する。あるいは、同じポジションにありながらタブーになったものとタブーならなかったものを比較して、その差異を検証する、そういったマテリアルな作業によって、タブー生成のメカニズムを浮かび上がらせようと試みました。

 また、本書には『噂の真相』時代、右翼の襲撃を受けて筆を鈍らせた私自身の苦い体験を正直に書いているのですが、これも自分の心理構造を直視することで、タブーと暴力の関係を明らかにしようという意図によるものです。  メディアは今、絶望的ともいえるほどの閉塞感に覆われていますが、こうしたタブーに対する直視が状況を揺さぶるきっかけになれば、と強く願っています。



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