『わたしの小さな古本屋』

田中美穂


 倉敷で蟲文庫という古本屋をやっています。ある日突然の思いつきで、まったく未経験のまま開業したこの店の18年間の出来事を書きました。
 
 はじめてからもずっと「軌道に乗る」という言葉など、どこか遠くの世界のもののように思えていましたが、でも日々帳場に座り、自分の意図や思惑など軽々と越えていく本と人との不思議なめぐりあわせに半ば呆然としながら過ごしているうちに、なんとかご飯が食べられるようになりました。「継続は力なり」という、この月並みなセリフも、この店のことを思えば実感として受け止めることができます。

 当初、いただいた企画案には、独立を目指す女性の夢の後押しを、という方向性もあったのですが、現実が現実ですので、無責任なことは書くわけにはいきません。最終的に「こんなケースもありますよ」という、これまでのことをありのままに書くことに落ち着きました。  全体の半分ほどは、以前「早稲田古本村通信」というメールマガジンに連載していたものなどで、それらを補足する形で書き下ろし、まとめています。

 自分のことを自分で書くのですから、以前出した苔の本や、現在取り組んでいる亀についての本と違って、科学的証拠をおさえるべく資料の山にあたる必要もありません。比較的気軽な気持ちでスタートしたのですが、いざ始めてみると、これが一番大変なことでした。なにしろ答えはどこにもありません。

 「1、2年やってみて、ダメだったらやめよう」そんな、甘い考えのもとにはじめたというのが正直なところですが、いざ、はじめてみると、そして、続ければ続けるほど、いったい古本屋にとっての「ダメ」ということはどういうことなのかがどんどん解らなくなり、いまにいたります。だからこそ、古本屋というのは、ほんとうに面白いなと思っています。


蟲文庫
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