古本屋ツアー・イン・ジャパン2012前半を振り返って

古本屋ツーリスト 小山力也


 毎日ご飯を食べるように、ほぼ毎日古本屋に行く。そして一日中、まだ見ぬ古本屋や古本について考えたり、漠然と思いを巡らせたりしている。そんな風に日々を過ごし、誰に要望されたわけでもないのに、勝手に古本屋について調査&報告する“古本屋の申し子”と化して、早五年目。五年も続けていると、慣れて何とも思わないことも多くなったが、逆に困ったり苦しんだりすることも増えて来た。そのひとつが、“古本屋ツアー”を進めれば進めるほど顕著になって行く、“訪ねるべき未踏のお店”の欠乏である。もちろんこれは、私の居住地である東京近辺に限ってのことであり、東日本は北関東以北に、西日本は東海以西に、おびただしい数の未踏のお店を残している。しかし遠くに行くのにお金と時間がかかるのは、この社会の必然。遠征の連続は財政への圧迫を増大させる。なので相変わらず、ちまちまと関東でのツアーを基本に、週末&時間のある時に地方に遠征するパターンを繰り返し、どうにか日々の活動を継続している…。

 と言うわけで目下の喫緊の問題は、訪ねるべきお店の少なくなったホームグラウンドの関東にあるのだ。まだ何処かに見逃しているお店があるに違いないのだが(こう言うお店を発見した時は、また格別な喜びが…)、最近は神保町・早稲田(残すところ後二・三店)・本郷三丁目(こちらも恐らく一・二店)を核にして、古本市・マイナーチェーン店・少しでも古本を置いてあるお店など、古本屋以外も大きく視野に入れツアーしている始末。しかしこれはこれで面白く、うどん屋・自転車屋・おもちゃ屋・アイス屋・レコード屋・古着屋・コイン&切手屋・チケット屋・ミュージアムショップ・喫茶店(カフェではない)・劇場・新刊書店など、意外なお店に麗しの古本が紛れ込んでいる、シュールな光景に胸をときめかせたりしている。

 マイナーチェーンのリサイクル系古本屋も捨てたものではなく、細かく回って行くと、同系列なのに個々のお店で予想外の個性を獲得していたりしている。侮り難し、リサイクル系マイナーチェーン!と肝に命じ、軽んじないことを心掛けているのだが、本来の個人店舗な古本屋好きとしては、やはり燃えない部分があるのは、否めない事実なのである…。あぁ、もっともっと個性を発揮してくれれば…。

 毎月、日本の何処かで必ず開かれている古本市については、ここ一・二年の隆盛には本当に目を見張るものがる。プロの市ももちろんのことだが、『一箱古本市』のように、素人(もしくは半プロ)の人たちが、自身を表現するために並べている本には、計り知れないパワーが秘められていることが多い。それが小さいとは言え、多数入り乱れ、通りすがりのお客さんが覗き込み、古本を介してやり取りをする。こんな単純な図式が、とにかく街を盛り上げる力のひとつにもなりえていたりする。さらにここから、プロの道に足を踏み入れ、ネット販売を始めたり、リアル店舗を開く人も現れる。本と言う物体が、人の生活にいかに深く関わっているか、古本市は今や、そんなことを改めて感じさせてくれる、古本界にとっても、大きなひとつの流れとなっているのではないだろうか。

 さらにこれらの“苦し紛れツアー”の副産物として挙げられるのが、図書館の古本市や、福祉活動としての古本販売の発見である。チャリティーや、仕事を供給する場所として機能していることが多いので、意外な本が驚くべき安値で手に入ることもあるのだ。

 とまぁ、このようにしてツアー先を血眼になってムリヤリ探し出し、日々どうにかブログをアップし続けてている。だから最近、地方のお店を訪ねることが嬉しくてならない。旅が楽しいのはもちろんなのだが、一番の理由はそこにはちゃんとした“古本屋さん”が待っているからだ。苦労してたどり着いた遠方に、その街に溶け込んだお店が、古本を蔵して待ってくれている。やはりこの体験は、私にとって何ものにも代え難い喜びなのである。日帰り仕事のついでにこっそり向かった「善行堂」。雪を踏み締め訪れた、気仙沼に復活を果たした「唯書館」。閉店してしまうため、一度は見なければと急襲した大阪「末広書店」。益子の変哲の無い田舎の住宅地に現れた「はなめがね本舗」。再稼働した火力発電所近くのアパートに潜むいわきの「瑞雲堂書林」。昭和の景色を冷凍保存した街・月江寺に満を持して開店した「不二御堂」。東京の古本市で店主とお会いした時に「伺います」と言ったので、約束を果たすために向かった岐阜の「徒然舎」…と喜びを、数え上げればきりがない。

 後半戦も同じような行動パターンとペースで、時に大きく逸脱したりしながら、活動を継続して行きたいと考えている。その目標のひとつとして、前述した「伺います」と挨拶したお店(まだ二店残っている…)には、今年中に必ず行こうと心に決めた。話す相手が古本屋さんなら、私は『伺います』の言葉を、社交辞令には決してしない覚悟で生きて行くつもりである。

 しかしそれにしても、北海道や東海以西の中部・近畿・中国・九州などにある大都市を調査するには、その都市に住み込まなければ、すべての古本屋を見つけることも訪ね切ることも、出来ないのではないかと、思い始めている…時々考え過ぎて、眠れぬ夜を迎えるほどに。一体どのような方策を採れば良いのだろうか。取りあえずは名古屋にでも移住して、そこを足掛かりに大阪や京都を………とこのように、私は日々、まだ見ぬ古本屋や古本について考え、思い巡らせているのである…。



『古本屋ツアー・イン・ジャパン』 日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。お店をダッシュで巡ること多々あり。調査活動は今年でいよいよ五年目へと突入した。最近は「フォニャルフ」の屋号で古本市などにも出没中。
あぁ、それにつけても古本屋よ、古本屋よ…。
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