『図書大概』について

大沼 晴暉

 このほど汲古書院より刊行した『図書大概』の内容は、林望氏のほめ言葉を爆弾の如く炸裂させた広告と、その上層にのせられた目次とに尽くされていよう。

 ただ、私が書物を見る上で常に心掛けているのは、物としての本、云わば物体、民具としての本なのだ。

 そこで、
第1章で、図書と他の文献との比較を行い、
第2・3章 物としての本を成立させている要素である容れ物、形態、外形と内容と      の連関に及び、
第4章 内容を記述する文体や漢字・片仮名・平仮名の関係に触れ、
第5章 日本の印刷の歴史と、
第6章 図書の調査の仕方とを略述した。

 物はどんなに佳い物であろうと、それ一点だけでは何の存在意義も持たぬと云ってよい。他の物と比べることによって、その存在意義や価値は定まってくる。

 博物館の鎌は一点のみでは何も語らないが、100点集まれば、その100点を比べることによって、地域性、時代差、用途、使い方など自ずと分かってくる。
 図書もその基本は比べ考えることだ。本書はただそれだけを、愚直にくり返し述べたものだと云ってよい。
 概説だけでは抽象に過ぎ分りにくいので、後半は250点ほどの図版を用いて、具体と実用とに意を注いだ。
 その図版も全国の図書館・文庫の資料に広く眼を向ければ、もっと佳い実例や写真は幾らでもあったであろう。だが現実にそうできない事情は図版写真の掲載料で、一点一万五千円もする図版を250点も掲載していたのではとてつもない高価な本になる。そこで学術書や紀要類に掲載する場合、刷部数も少ないこととて現所蔵者が考慮してくれるが、一般の営利出版ではそうはいかない。
 本書の図版を私の属していたもとの職場(斯道文庫・慶應義塾)のもののみに限った理由はそこにある。こうした所蔵者の厚意なくしてはこの本はまず出来なかったであろう。

 索引をほめてくれた人がおり、自分の必要もあって繰った折、試しに読み直して駭いた。誤植−近頃はむしろ誤変換と云うべきか−が少なからず見つかったのである。急いだとは云え、これほどとは思わなかった。
(誤)−(正)
449ページ下段 後5行目 本活−木活
           後1行目 禁合−禁令
457ページ 2段 10行目 影字−影写
460ページ上段 後1行目 標柱−標注
本文  47ページ 6行目 糸編−糸偏 (以下2項 佐藤道生氏)
81ページ 8行目 大学守−大学頭
128ページ 後2行目 流盛−隆盛 (延広真治氏)122ページ 後6行目にもあり
193ページ上4行目 寛永九年−寛永九

 まことに世に誤植の種は尽きない。どうか皆さんも一冊購入して誤植を捜し出して下さい。




『図書大概』 大沼晴暉 著
  汲古書院 定価 本体8,000円+税
 http://www.kyuko.asia/book/b106210.html



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