古本屋ツアー・イン・ジャパン2013年前半を振り返って

古本屋ツーリスト 小山力也


 ここが人生の正念場である。切々とそう感じた半年間であった。
 全国の古本屋さんを自主的に調査し始めてから、ついに五年目を突破。実際にそのお店まで出向いて対峙し、内部構造や棚を記憶して、店主をチラと盗み見し、古本を買い、それらを文章化してブログにアップする。そんなことをもう、およそ1500軒以上は繰り返して来たことになる。しかしそれでも、訪ねるべきお店は全国にまだまだ残っており、未だ道半ばの思いばかりに囚われている。

 前回の原稿『古本屋ツアー・イン・ジャパン2012年を振り返って』では、「私はこの先の見えない『こちらが倒れるのが先か、お店を調査し尽くすのが先か』と言うチキンレースから降りるつもりは毛頭無い。来年は、北海道・青森・山陰・四国・九州・沖縄に足跡をつけて来たいものだ」と書いていた。正にここがポイントで正念場なのである。列記した地方は未踏の古本屋さんを多く残し、今までの南東北?中部までの比較的安値で訪ねられる近めな所とは異なり、交通費も移動時間もグンと跳ね上がる遠距離ばかり。しかし! ここに足を延ばさねば、全国の古本屋さんを調査すると言う野望は、決して達成出来ぬのである。

関東は、街の片隅に隠れるようにひっそりと残るお店・神保町に集中するお店・リサイクル店・これから開店するお店・事務所店を残すのみで、ほぼ巡り倒してしまった。その周辺である、新潟・山梨・静岡・長野・福島・宮城・山形辺りも、チェックメイトが近付いている。だが、去年宣言していた土地には、まだ一度も足を踏み入れていないだらしなさ…。古本屋調査が進むのは良いことだが、遠くへ飛び出せずに、近くを虱潰しにしている偏向性が、その無闇に高い志と常識人たる己の心を、押し潰し始めているのだ…。

 かといって意気消沈ばかりの半年であったわけではなく、地道で孤独な“独りローラー作戦”の調査は刻々と進み、様々な古本屋さんとの出会いと別れを繰り返して来たのも、また事実なのである。日光の別荘地にあるカレーが振る舞われる古本屋「霧降文庫」、浦和の夜の町に生き残り続けていた「んぐう堂」、静岡に無政府主義関連本を核にして良書を並べる「水曜文庫」、新発田の冬の雪まみれのシャッター商店街で見た暖かな「いと本」、宮古で人々を元気づけるためにコミックを掻き集めた「春夏冬書房」、東青梅のついに入れた児童書の殿堂「青梅多摩書房」、静岡の過去から舞い戻って来た「一冊 萬字亭」、柏崎の忘れ去られた古本屋「加納書店」、三鷹に生まれた無人古本屋と完全少女趣味の「点滴堂」、「つちうら古書倶楽部」のグランドオープン、仙台で震災から甦った姿をようやく確認出来た「ビブロニア書店」と「有隣堂」、金町の幻の古本屋「一草洞」、長野の観光客で賑わう成功を見せる「団地堂2号店」、国分寺バス停前のSFを得意とする小さな三角形のお店「まどそら堂」、陶器の町・益子に潜む様々なカタチでの古本販売、深川『のらくロード』にやって来た古本一兵卒「ほんの木」、航空公園の団地に出来た「古書つくし」、ようやく学芸大学に腰を落ち着けた「SUNNY BOY BOOKS」、スーパー源氏が神保町に攻め入って来た「スーパー源氏 神保町店」、学生のためではなく若者のために開いたつくばの新店「PEOPLE」、福井県初ツアー、愛知県の調査が徐々にジワリと進行中……以上は喜ぶべき出会いと成果ばかりだが、その代わり悲しい現場にも多数直面した。

長津田の雑書王「ヨコヤマ書店」、藤沢の名店「聖智文庫」、郡山の駅前店「古書ふみくら 郡山店」、下町柴又の「健文堂書店」、阿佐ヶ谷の老舗「今井書店」、早稲田の文庫&映画スチール充実店「文省堂書店 早稲田店」、神奈川湘南地区の「耕書堂」「ほづみ書店」などがドスドスと閉店し(事務所店やネット販売を主とする営業に移行のお店多々あり)、半べそをかきながら頭の中の古本屋地図を大きく書き換えることを強いられたりもした。これらの楽しく、時に涙を流しながら駆け抜けた記録は、血と汗の結晶として、ブログ内に無事に残されている。しかし記録は記録であり、すべては過ぎ去ったこと…それは未来に残すデータとしての遺産であり過去の集積であり、未来そのものにはなりえないのだ。つまりは、立ち止まったらそこで終了…やはり私は、己の手で未来を掴んで記録し続けなければ、この先生きる意味も無いのではないか…。

 正念場…つまりは“古本屋ツアー”を促進させるのか、それともペースダウンするのか…いや、時間は無尽蔵ではない。今のペースを保たねば、とても生きているうちに、全国の古本屋さんを調査し切れるはずがないのだ! 一度行ったお店に、テーマなどを設定して再訪するのも非常に楽しいのだが、所詮は“古本屋ツアー延命”のごまかしでしかないのである(もちろん、これからもこの手法は使うつもりであるが…)。やはり覚悟は決めなければならない。時間と体力と資金の続く限り、私は逸脱しなければならない!と自身を追い込む! これからも、ただただ未踏の古本屋さんを目指して進み続けるのだ!

   しかしそんな孤独な道中でも、時にすがれる物を激しく必要としたりする。そこで先の見えない道すがらの里程標、ブログ以外にも己のしていることが正しいと過信させてくれる力強いアイテムとして、年末に某出版社から『古本屋ツアー・イン・ジャパン』の単行本の出版を予定している。現在、必死に鋭意編集制作中。さらにこれを起爆剤とし、まだ見ぬ古本屋さんを目指して、持てる力の限りを尽くして邁進するつもりである。

 …あぁ、私はもしかしたら大事な選択を誤ってしまったのかもしれない。足を見事に踏み外し、崖下に転落している真っ最中なのかもしれない。いやしかし、もうそれでもいい! それが、己が好きで選んだ道なのだから。どうか、全国の古本屋さんよ、営業日と営業時間内にお店を開けて、私が訪ねるのを待っていて下さい!



『古本屋ツアー・イン・ジャパン』
日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。トマソン社のリトルプレス「BOOK5」で『新刊屋ツアー・イン・ジャパン』を、webマガジン「ゴーイングマガジン」で『均一台三段目の三番目の古本』を連載中。http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/


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