「離島の本屋には、いったい何がある?」

朴 順梨

人口わずか600人あまりの北大東島。東京23区よりも大きな面積を持ち、「島」と呼ぶにはかなりの広さがある奄美大島。日本には実に6800もの島があり、人が住んでいる島は約400程度。さらにその中で「本屋」がある島は・・・・・・? いくつなのかは、正直私には分からない。しかしそんな島々を約8年かけて巡り、本屋を訪ね歩いた日々をまとめた『離島の本屋』という本を7月に出版した。版元は“ころから”。今年1月に赤羽で生まれた、まさに旅を始めたばかりの出版社だ。
 
 今までに訪ねたのは22島。本土と橋が架かっているため、車でびゅーんと行けた島もあれば、25時間半フェリーに揺られて、ようやく辿り着いた島もある。どこも海と自然に囲まれていることから、景色が似ることもなくはない。しかしそれぞれに違った空気が流れ、それぞれに違った人達が暮らし、時を紡いでいた。それは本屋も、同じことだった。

店主やその友人が作ったハンドクラフトや写真が棚を飾る本屋、駄菓子や雑貨が人気の本屋、図書館が併設された本屋、お酒も一緒に選べる本屋、誰がどの本を買ったかが一目瞭然の、売上ノートをつけている本屋・・・・・・。離島の本屋はその島の人達や土地に合わせ、まさに変幻自在だった。旅を始める前の私は「離島の本屋は、きっとこういうものだ」と、根拠のない絵を頭に描いていた。しかしいざ訪れてみると、その絵どおりの本屋など一軒もなかった。でもいずれの本屋も「その絵」以上だったと、個人的には思っている。

「今度○×島に行くんだけど、どこに寄ったらいい?」
私が島に取材でよく行くことを知る友人知人から、こう聞かれることがある。そのたびに私は、本屋に立ち寄ることを勧めている。なぜなら本屋に行けば、その町や村のことがわかるからだ。

 本屋にはその土地の歴史やゆかりの人物、文化に関する本が必ずといっていいほど置いてある。たとえば私も奄美大島にもユタがいたことや、新島のヨベームン(呼ぶものの意味。山の神や天狗、魔物説があって、人々に怖れられている)伝説のこと、そして『忘れられた日本人』を書いた宮本常一と周防大島との縁については、島で出会った本で知った。

  また本屋には地元の人達が連日、多数訪れる。ガイドブックにはない「ナマの情報」が聞けるし、島の人と話す機会も得られる。島を知りたければ、本屋に寄ってみることだ。 ただ残念なことに、本屋がない島もかなりある。そして取材時には「あった」のに、今はなくなってしまった本屋も、残念ながら存在する。だからある意味、旅行ガイドブック的な意味合いで『離島の本屋』を手に取ると、少しがっかりしてしまうかもしれない。

だけど「あの日」「あの時」「あの場所」に本屋があったことに思いを馳せながら、ページをめくって頂けたら。これほど嬉しいことはないと思っている。


『離島の本屋』朴 順梨 著 ころから刊
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http://korocolor.com/rito_no_honnya.html


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