ちょっと本気で古本屋になるための本

澄田 喜広

古本屋の仕事の多くがお客さんの見えないところで行われることもあるけれど、値付けのノウハウや古書流通の仕組みについて、当事者たちが語らなかったという理由も大きい。古本屋は、やり方を知ってしまえば誰でもできる商売だ。簡単な秘密だからこそ、誰も語らなかったのだ。

古本屋をやるには特別な修行はいらない。そこがそば屋や洗濯屋との違いだ。独立するのに、大口の顧客や仕入ルートを確保しておく必要もない。

ただし、古本屋は本を愛していさえすれば始められるが、長く続けるにはそれなりのコツがある。数年も続けていれば自然に身につく事柄だが、そのまえに力尽きてしまう人も多い。ベテランの古本屋は、それぞれ自分なりの方法で商売をしている。一般的なセオリーを開業時に知っていれば、自分なりのスタイルを身につけるまでもたせることができるだろう。

レストランの経営は料理がうまいだけでは成り立たないということは、すぐに想像がつくだろう。繁盛している店には、おいしい料理を「商売」にするためのノウハウがあるはずだ。たいていの仕事では仕入れ先や問屋が多少なりとも指導してくれるだろう。居酒屋なら、ビールを納入するメーカーがメニューや看板の相談に乗ってくれるし、ヘアサロンなら薬剤や設備を卸す美容商社が開店資金の提供までしてくれることがあるという。

古本屋は一般客から仕入れた本を一般客に売る仕事なので、大手の取引先というものがない。せいぜい古書組合がある程度だが、同業者同士の集まりで営利団体でもないので、細かく面倒を見てくれることはない。そこで、伝統的なノウハウを知りたいなら、既存の古書店に勤めて実地の仕事をしながら身につけるのが、ほとんど唯一の方法だ。

しかし、古本屋を取り巻く環境はここ10年で大きく変わってしまった。既存の古書店のやり方を学んでも、その方法でこれから開業できるとは限らない。老舗古書店で経験を積んだとしても、これからの時代にも通用する経営の技法は自分で見つけるほかない。

本書では、古本屋のビジネスモデルを専門店型、自給自足型、新古書店型、セレクトショップ型、発見型総合古書店、検索型総合古書店(買取専門店)の6種にわけて解説した。とくに、専門店型とセレクトショップ型は似ていて、これから古書店を始めようとしている人も混同している場合がある。しかし経営の方法が全く異なるので、自分がやりたいのはどちらなのかしっかりと見極めておくことが必要だ。

あわせて、古書店を取り巻く環境の変化を、主に出版業界における大量出版時代の終焉と、流通業界におけるネットの影響を中心に考察した。

この『古本屋になろう!』は、ほとんど私の店「よみた屋」での経験がもとになっている。一般的な調査を経たものではないので、一面的独断的な部分もあるだろう。しかし、古書店を実際に経営している店主の生きた秘訣がつまっている。

古書店の経営は、多くの方の協力がなければ成り立たない。いままでよみた屋を支えてくれたお客様、地域の方、同業者、そして自営業だから家族、くわえて従業員のみなさまに感謝します。





『古本屋になろう!』 澄田 喜広 著
青弓社刊 定価:1600円+税 好評発売中
  http://www.seikyusha.co.jp/wp/books/isbn978-4-7872-9223-0







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