『芸術批評誌REAR 32号 特集「本をとどける」』

増田千恵(リア制作室)

芸術批評誌REAR(リア)は、2003年1月に特集「名古屋発/名古屋脱」で創刊しました。 以来、特集・批評・レビューを軸に構成している批評誌です。中部地域の芸術を「後衛(rear)」として批評・記録しながら、書き手や読者の広がりとともに視野を拡大してきました。

10年30号を超え、美術界隈ではそれなりに存在を知られるようになってきましたので、きちんとした事務所で編集者たちはバリバリと…と思われがちなのですが、みな他に本業を持ちながらの非営利活動で、某シアトル系カフェを本拠地に編集会議を行っています。 メンバーもゆるやかに新陳代謝を繰り返しながらなんとか続けています(実働部隊が2人になってしまったときはさすがに限界を感じました…)。

8月に32号(特集「本をとどける」)を発行しました。
本の製作、出版から流通、販売、活用や保存にいたるまで、さまざまな立場から論じていただきました。創刊以来はじめて「本」をテーマにしましたが、思わぬ反響の大きさに驚いています(このメルマガのような依頼がきたのもはじめてです!ありがとうございます)。

特集のきっかけは、美術館で発行される展覧会図録の「分厚さ」でした。
書籍の電子化に注目が集まる中で、それに逆行するような存在感の図録が多くなったように感じ(代表例は東京都現代美術館の『大竹伸朗 全景 1955-2006』(2007年、grambooks)厚さ13cm、重さ6kg!持って帰るのも大変です)、編集会議を重ねました。

結果的に今回の特集ではこの事象については触れられませんでしたが、研究成果をふまえた論考や資料の充実した大型図録が発行される背景や、最初に書店流通を行った図録は何の展覧会だったのか、など興味は尽きません。

編集作業では、わたしたちが本を手にするまでの間にはとても多くの人の手が実際に介在しているのだ、という当たり前のことを何度となく実感することになりました。
取り上げられなかった装丁や造本・印刷なども含め、「モノ」としての「本」だからこそ人から人へ手渡され残されていくのだと、それぞれの「手」を思い浮かべています。

巻頭対談をお願いした菊地敬一氏(ヴィレッジヴァンガード会長)と古田一晴氏(ちくさ正文館書店本店店長)、進行役をつとめて下さった石橋毅史氏(『「本屋」は死なない』著者)をはじめ、たくさんの方にご寄稿・ご協力いただきましたが、静かで熱い気持ちがまっすぐに伝わってくる特集になったと自負しています。
ぜひ本屋さんで手にとってください。

次号では今年生誕100年を迎えた画家・浅野弥衛を特集します。
みなさまの手にとどく場面を想像しながら、よりよいものになるよう丁寧に取り組んでいきたいです。

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http://2525kiyo.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-2ad2.html




『芸術批評誌REAR 32号 特集「本をとどける」』
リア制作室 定価:450円+税 好評発売中
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