小泉孝一『鈴木書店の成長と衰退』について

小田光雄

 この一文をインタビューアーの私が書くことになったのは、本書の「あとがき」にも記しておいたように、小泉さんが行方不明といっていい状況にあるからです。

 小泉さんへのインタビューは2011年秋になされ、それに基づき、私が構成、編集し、ゲラも出て、様々な確認チェックもすみ、小泉さんに渡すことができました。小泉さんはそのゲラを読み、これで大体いいのだが、言葉遣いと事実関係に気になるところがあるので、もう一度読み直してみるとの返事を戻してきました。私の感触としてはそれほどの修正はなく、スムーズに刊行できるというものでした。

 ところがここまでは順調に進んでいたのですが、その直後から小泉さんと連絡がとれなくなってしまいました。そしてすでに三年近くが過ぎてしまったことになります。もちろんこの間に四方八方とまではいえないにしても、考えられるかぎりのルートをたどり、小泉さんの消息を求めたのですが、まったく手がかりをつかめないまま、今日に至ってしまいました。

 しかしその一方で、出版業界の危機はますます深刻化し、出版社や書店だけでなく、取次にも顕著に表われる事態を迎えています。そのような取次の危機と破綻の先行例となったのは神田の人文書専門取次の鈴木書店であり、取締役仕入部長だった小泉さんが語る倒産に至るプロセスは現在の出版状況の中にあって、あまりにも生々しいものです。そしてまた取次の内実がここまで語られたことは戦後出版史においても初めてでしょうし、貴重な証言といっていいと思います。

 それゆえにこの『鈴木書店の成長と衰退』を未刊のままで放置するのはしのび難く、関係者と協議の上、ここに刊行することになったわけです。ただ小泉さん自身が修正を施すことはできませんでしたので、気にしていた言葉遣いを変え、事実関係に関しても再度確認をとり、またそうでない場合は削除したりしています。

 小泉さんは鈴木書店退職後、ある人文書出版社の経営に携わっていましたが、病気と経営難の中にありました。そのような中であえてインタビューに出て頂いたことに対し、小泉さんに感謝をこめ、関係者ともどもこの一冊を刊行する次第です。取次だけでなく、出版社、書店の人々にも広く読まれますように。





 『鈴木書店の成長と衰退』  小泉孝一 著
 論創社刊 定価:1600円+税 好評発売中
 http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-8460-1360-8.html


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