軍歌こそ愛国ビジネスの元祖:『愛国とレコード』

辻田真佐憲

 「愛国ビジネス」という言葉がある。ナショナリズムを利用した営利活動のことだ。昨今では、自国を盲目的に礼賛する本や「嫌韓本」の氾濫を指して使われることが多い。あるいは、中国や韓国における多種多様な「反日ビジネス」もその類といってよい。さながらここ数年の北東アジアでは、「愛国ビジネス」がブームなのである。

 しかし、「愛国ビジネス」は戦前の日本にもあったのではないだろうか? 拙著『愛国とレコード』は、1930年代のレコード産業を舞台に、戦前の「愛国ビジネス」の歴史を探ろうとするものだ。  本書で特に焦点を当てたのは、名古屋にあったレコード会社・アサヒ蓄音器商会。戦時中に倒産してしまったため、今は存在していない。にもかかわらずこのレコード会社を取り上げたのは、先行研究が少ないため書籍にまとめる価値があったということもあるが、その一方で、同社が露骨なまでに「愛国ビジネス」を展開していたということが大きい。

 アサヒ蓄音器商会は小さなレコード会社だったので、時代にうまく乗らないとつぶれてしまう宿命にあった。だから、「時局便乗」といわれようが、「粗製濫造」といわれようがお構いなしに、満洲事変や日中戦争にあわせて軍歌や愛国歌を吹き込んで売り出していたのである。

 本書では、同社が売りだした様々なレコードを写真付きで紹介した。例えば、1935(昭和10)年の「躍進節」。日本が北(満洲)に南(南洋)にどんどん躍進しているという他愛もない歌なのだが、実はこれ、ビクターのヒット曲の完全パクリなのである。売れるためには、他社の剽窃も辞さない。同社の商法には、内務省の検閲官ですら「笑止千万」と呆れたほどだった。軍歌は、軍部が押し付けるものではなく、民間企業が営利のため自発的に生み出すものだったのだ。

 このように、アサヒ蓄音器商会の時局レコードは、「愛国ビジネス」のもっとも核心的な部分を表しているように思う。すなわち、彼らが愛しているのは「国」でも「イデオロギー」でもなく、「目先の金」であるということを。

 ゆえに、本書の目的は「愛国」批判でも、「ビジネス」批判でもない。むしろ両者が結びついた「愛国ビジネス」の検証なのだ。この言葉に障りがあるなら、「亡国ビジネス」と言い換えてもよい。というのも、実際に1930年代に戦争に突き進んだ日本は、破滅的な太平洋戦争を始めてしまうのだから。

 我々は来年で終戦70周年を迎える。そこで今、悲惨な戦争の入り口にあった「愛国ビジネス」の実態を思い返すことには意義があると思われる。それはまた、我々の眼前にある現役の「愛国ビジネス」を考えなおすきっかけにもなることだろう。



 『愛国とレコード』辻田真佐憲 著
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