−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年4月号)

 

原点に帰る懐しい古本屋

浜松・時代舎
田村和典

 

 この15年で地方の古本屋の風景は変わった。「まだこんな店が残っていたのですね」
 客からこんな声をかけられる事がふえた。先日、地元のミニコミ誌「浜松百撰」から懐しい店の特集で取材を受けた。刷り上がってきた雑誌を見ると、特集は・消えゆく職業・となっていた。
 店売りにこだわって30年、昔ながらの古本屋が、珍しがられる時代になった。それでも、客から一日中いたいとか、ここに来るとホッとすると言われると、嬉しい。
 浜松は地方都市で、県庁所在地でもない。駅前・繁華街の没落は目を覆いたくなる。大学も文系が弱く、店舗立地は都会とは異なる。こうした地域で、昔ながらの古本屋がやれる場所は、路面店(一階)で、家賃が安い(消却の済んでいる建物)事が絶対だと思っている(最近では、家賃が払えないのではなく、売り上げが家賃にも届かなくて廃業する話すら耳にする)。人口も集積がまばらなので、広域の方に来店してもらわねば成り立たない。最寄りの交通拠点から一キロ圏内外で、数年に一度は遠隔地の人が通る可能性のある場所でないといけない。
 因みに、弊店は、駅から一キロちょっと、市役所と美術館にはさまれて、真後ろに浜松城の天守閣。公園の入り口である。年と共に認知度があがり、地元では60キロ圏くらい(遠江・三河)の方が固定客として支えて下さる。年に一・二度、数年に一度の県外の方も寄って頂けている。
 ディスプレイについては、照明が明る過ぎない様に気をつけている。近頃は照度の多い店がふえている。本が背焼けして見苦しい所も多い。あるブログに「時代舎についてみると、さびれきった外見。ところが中に入ってみると思いもしなかった充実ぶり〜」と書かれた事もあった。古本屋のディスプレイは、並べている本の背に尽きると思っている。店頭在庫を、特徴を出すための常備在庫と、頻繁に来店下さる方のための入れ替え在庫に分けて管理している。大体四ヶ月に一度は三割の本を入れ替え陳列している。一年経てば常備在庫以外はすっかり替わっている計算だ。足繁く通って来られる方には、最新の入荷品を提供し、一定の間隔を置く客には、前に来た時と一緒だという落胆を与えない。又、来ようと思ってもらえる棚造りを目指している。
 地方都市のハンディ・キャップも、見方を変えると武器になる。経費のかからぬ倉庫を確保し、在庫を三分割して養生する。バックヤードを活用して、在庫管理を徹底する事がまるで倉庫そのままの大型店と闘う道だと思う。どの店を見ても金太郎飴では面白くない。
 あと一つ。品質管理。古本はコンディションが異なるのは当り前だ。検品・補修を品出し前にキチンと行なう。痛みや線引きといった難点も分かり易く表示している。店に対する信頼、看板にブランドを獲ち取る上でも、これは重要なディスプレイかも知れない。
 ブックオフの登場で従来の古本屋が変化を余儀なくされているのではない。戦後の出版・流通・読者の量的・質的変化がブックオフを派生させ既存の古書業界をも洗っている。ウルトラCを持たない身にしては、何をしたいのかよく考え、愚直に丁寧にコツコツと仕事するのが一番だと思う。迷った時は原点に帰る。目を閉じて、昔寄った懐しい古本屋の光景を思い浮かべる。その憧れの雰囲気に少しでも近づける様、目を開けて、また仕事する。

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