−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年4月号)

 

現代古本屋考

吉祥寺・よみた屋
澄田喜広
http://www.yomitaya.co.jp/

 

 1 古本屋はなぜ潰れないのか
 商店街のはずれ、ほとんど住宅地に半分入り込むようにして営業している古本屋がよくある。こんなところで経営が成り立つのだろうかと思ったことはないだろうか。
 古本屋も物販の一種、他の小売店と同じで、人通りの多いところで、営業するに越したことはない。しかし、どんな商売でも可能なところは家賃も高い。高い家賃を支払えるほどの売れ筋品をコンスタントに仕入れるのは大変むずかしいし、古本屋の品物は一点限りだから、売れた分だけ同じものを仕入れられる商売と同じような意味で回転率を上げることもできない。家賃もそこそこ売上もそこそこの裏通りに立地することになる。
 住宅街で営業する積極的な理由もある。古本屋は販売だけではなく買取もする。多くの人は地元で蔵書を処分するから、都心よりも郊外の方が買取があるのだ。本がたくさん入った重い袋を下げて、商店街の真ん中まで歩くのはつらいから、車も止めやすい周辺地域での買取が有利となる。
 仕入さえしっかりしていれば、販売方法はかなり工夫の余地がある。デパートやイベント会場などで行われる古書即売会への出店、古書目録の発行、インターネット、古書組合が主催する業者の市場への出品。店売り以外にも方法はいくらでもある。
 多くの古書店でお店以外の収入が大半を占めているのではないだろうか。収入が頼りにならないのなら、コストがかからないことが最も重要になる。自宅のガレージを改造して家賃ゼロなら、あえて好立地を求めてリスクを冒すより確実だ。
 そういうわけで、いかにも売れてなさそうな古本屋であっても心配ない。いや、心配はあるかもしれないけれど、何とかなっているからやっているのだと思う。
 お客さんの側から見ても、目立ちすぎる古本屋より、表通りから一度曲がった裏通りで発見できる古書店の方が、掘り出し物がありそうで、魅力を感じるのではないだろうか。


2 本は見た目が9割
 最近はきれいな古本屋が増えた。本が山のように積まれていて、半分ぐらい進入不能になっている店もまだまだある。
 しかし、全体的に見れば、ここ十年で古書店の面積当たりの在庫数はずいぶん減ったように思う。かつては未整理の本が店の味だったが、今はどうも違うらしい。最近のトレンドは本のセレクトショップだ。店主のセンスに合うものを選択して、お勧め品として提示する。
 書店では本を「探せる」ことも重要である。しかし、実際には普通の古本屋では探している本が見つかるということはほとんどないだろう。だから、あいうえお順などの探すための配列はあまり意味がない。
 それよりも、テーマごとに本を見せて、「発見」してもらうようにする方がいい。こんな本もあったのか、という楽しみは、日本の古本屋の検索では味わえないものである。
 近年、学術書もカラフルな装丁のものが多くなった。書店の店頭で売れるのはやはり見た目のかっこいい本だ。そういうものをお店独自の視点で、雑誌を編集するように構成すれば、古本屋は、本と人とのさまざまな出会いを演出できる小世界となるだろう。

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