−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年4月号)

 

   ターゲットは
     古本屋を知らない
           本好き

八重洲・金井書店
花井敏夫
http://www.kosho.co.jp/

 

 新刊書店を利用する読者の内、古書店を利用する読者はどの位いるのでしょうか? 調査資料がないので誰も予想しかできないと思いますが、私は一割、無理矢理大きく見積もっても三割でしょうか。新古書店の利用者はもう少し上回ることでしょう。逆に、古書店しか利用しない読者はまずいらっしゃらないと想像します。つまり、開拓の余地は充分にあると思います。
 金井書店が八重洲地下街に出店した動機は、「人の集まるところでは商いが成立する」事でした。今から二十年以上前の詣ですが、スーパーマーケットのイベントでよく売れたのです。だから、人出の多い東京駅八重洲地下街に出店したのです。七坪程の店舗が二店舗六十坪の店舗に成長したと言うことは、狙いに間違いはなかったのです。しかし、経済状況の変化、古書価の下落、娯楽・趣味の多様化、情報収集・教養・研究に便利なインターネットの急速な普及など、書物にかかわる環境が大きく変わり過渡期を迎えております。
 東京駅周辺は大きく変身しています。「東京駅ルネッサンス」「東京ステーションシティ」と言う文字が躍る再開発が進行中です。八重洲地下街も同時に変身してゆきます。金井書店もこの機会に、知らぬうちに「古書の世界」に吸い込まれるているような店づくりを目指して変身しようとしています。
 ショッピングセンター(SC)に位置する古書店はそのSCの方針に従い、他業種と同様に一体感を持って運営していかなければなりません。接客、品揃え、ディスプレーなど研鑽しなければならぬ事がたくさんあります。決して強制されているもではありませんが、人気店と並んで商いするのですから、良い刺激となります。五年前に開店したR・S・Booksはこのような環境の中から生まれたといっても良いでしょう。
 初めから本を求めてくる方には従前の古書店スタイルを大きく変更する必要はないと思います。古書ファン、読者が増えてほしいと思えば、新規開拓の努力が必要になります。その方怯もいろいろあることでしょうが、八重洲地下街に立地していればリアルな展開となります。店頭で足を止めて、本を手にして、店内に誘導……。お買上に繋がる商材とディスプレー。
 八重洲地下街ではクリスマスをテーマに「ディスプレーコンテスト」を実施しました。八重洲古書館は店の構えと商品構成から対応が難しいのですが、R・S・Booksは日頃からビジュアル面には特段の配慮をしており、表現力は向上してきました。単に本を面出しするのではなく、中を見せたり、グッズを置いたり、クラシックなタイプライターを置いたり、花を配置してみたり、様々な工夫をしています。先のコンテストでは、スタッフ自身が欲しくなるジャンルをメインに、店頭はクリスマスイメージをソフトに展開し、店内に自分の部屋で愉しめる飾り付けに心がけた一角を設けました。栞にもクリスマスカラーのリボンを結びご提供しました。結果は見事トップクラス。
 審査には専門家の方は勿論、周囲の店長さんたちも加わり採点されます。一般論からすると馴染みの薄い古書店がディスプレーコンテストで認められることに意義があり、新規顧客獲得の一手段が身につきはじめたことと喜んでおります。CS(顧客満足=Customer satisfaction)セミナーも必ず参加して、お客さまの立場に立った接客、ファンづくりなどについて研鑽しております。スタッフの感性を大切にしながら、立地条件などの改善を図りお客さまとの新たな出逢いを飛躍的に増やすことを目標に「金井書店再開発」を進行させます。二〇〇七年秋をお楽しみに。

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