−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年4月号)

 

小さな古書店と大きな古書店

郡山市・古書てんとうふ
熊谷鶴三

 

 このようなお題を頂戴してから、冷静沈着に過去二十一年間の当店の歩を振り返る事が出来ました。当初、この忙しさでは文章など書ける暇が無いのではないかと思っておりました。現に昭和59年にオープン致しました駅前店の移転がこの3月3日に終了・開店とめまぐるしい日々を送っていました。年の割には体のリバウンドも無くお蔭様で「これからの古書店」の布石になってくれるのではないかと自画自賛しております。
 「これからの古書店」を論ずるにはまたとない機会に恵まれた形となりました。「これから」を論ずるには「これまで」の分析は不可欠であります。これまでの経緯も業績も「これから」を保証してくれるものは無いといっても過言では無いほど情勢は厳しいのです。
 少し具体的に店舗立地の分析をして見ますと、当店の場合二店舗をひとつの共同体と考えております。といいますのも書籍の種類は際限無く広大ですので分別して本店(40坪)と新駅前店(15坪)に分散陳列してあります。それぞれに駐車スペース3〜4台分を確保しています。地方都市では駐車場が不可欠要因です。旧駅前店はここ数年駐車スペースが無く、売買に影響が出始め、店舗移転を決意いたしました。新店舗はこの問題を解消、来客数も5割増しになり一応の成果を見ております。立地を考えての移転(旧店舗との距離約百m・本店との距離を考慮)でしたので、駅前地区には他都市からのフリーの来客があり、新店舗は点として確保しておきたい重要な店舗であり、本店は全てをリカバリーできる体制でこの難局を乗り越えねばと思っております。
 ディスプレイに関して昨今一番影響が出ている分野は漫画だろうと認識しております。当店でも漫画全般は一主力商品であり続けておりましたので戸惑っているのが現状です。
 この漫画市場の分析はそれぞれの経営者が対処しなければならない状況でしょうが、当店では全体の棚の占拠率は確実に減少の一途を辿っています。本店ではその代わりになる戦力商品を活字に拘った本に変換いたしました。今までの在庫・新入荷は全てネット商品になるだろうと思われます。
 私なりに「これからの古書店」の立地・ディスプレイを一元的に表現するとすれば「小さな古書店」と「大きな古書店」に集約できると思います。
 「小さな古書店」の定義は各地域の文化・環境にマッチした商品にオンリー・ワンの商品を加えた品揃いでしょう。オンリー・ワン商品とはその店舗の責任者(いつでもいる人で経営者でなくても良い)が拘りと専門知識を兼ね備えた商品を取り扱う分野です。他の商品とかけ離れた商品でも十二分に対応できるのであればそれは良しと考えられます。
 「大きな古書店」とは日本全国はもとより海外の需要にまで対応できる商品を取り扱う企業・企業体です。
 「小さな古書店」は立地を吟味する必要があり、「大きな古書店」は文字通り資金を含めた巨大なメガ古書店になり、立地条件はさほど問題ではなく「大きさ」に集約されます。
 「小さな古書店」が各地で生き生きとしてそれぞれのポリシーを生かした経営をし、「大きな古書店」は「小さな古書店」と業務提携をして商品の充実に当てる。こんな未来像(近い将来)があれば「小さな古書店」を増やしていきたい気分にもなれるでしょう。
 今後の十年がまた楽しく営業できますように祈念して。

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