−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年5月号)

 

自らのHPを作る大切さ

郡山・古書ふみくら
佐藤周一
http://www.humikura.com/

 

 当店がネット販売を始めてから今年で七年目に入った。二〇〇〇年の売上四三八万から二〇〇五年は一三三七万の売上と取り敢えずは少しずつであれ、売上は伸びているが、その伸びは現在の所鈍化している。今後ネット販売が果たして、古本業界の主流の販売形態になるかと言うと、個人的にはいささか疑問を感じている。コスト的には安価にはみえる。しかし、当店のような零細店でも、月々の経費は五万円程かかるし、PCの切替等の費用を考えると決して安価では無い。確かに家賃等と較べると安いとは思うが、その分人的負担は大きいものがある。24時間営業のしんどさ、休んではいけないという恐怖感のようなもの、始めて良かったのかと思う時もある。そして便利ではあるが、今後記録として長期の保存に果たして耐えうるのか、或日突然入力した全部のデータが消えてしまったという悪夢を時折見ることもある。
 お店に来てもらって、会話しながらの販売が少なくなっている現在、顔の見えないお客様を相手にするということが、これからの古本屋に多大な影響を与えていくことは、現実であるし、それが、古本屋にとってどうなのか、何年後か何十年後かに結果が出てからでは遅すぎるような気がする。本音を言えば本を手にとって、触って見て、買われなくともよいから店を楽しんで欲しい。ネットの世界の中で古本屋とお客様が共に切磋琢磨して、育っていけるのかと考えるといささか暗澹とした気持ちになる。お客様の顔を見ない、或いは知らない古本屋で良いのか。とは言え現実問題としては、当店も売り上げの少なくない部分をネットに依存している。週に数回のHPの更新と「日本の古本屋」等へのデータアップに絶えず追われている。その作業を休まずにしなければ、あっという間に売上に影響がでる。それを如実に知ったのは一昨年の父の死の前後であった。一ヶ月程データの入力をしなかったら、二ヶ月間、通常売上の30%減であった。これからのネット販売は「日本の古本屋」等の検索サイトに頼るだけでなく、自らのHPで新たな店を作ることを考えていかなければならないと思う(因に当店では売上比率HP65%検索サイト35%である)。検索では複数注文が少ないが、HPでは複数注文が多いこと、すなわちお客様の購入単価がより高いと云うことである。HPの目録を店の棚のように見せる工夫と印刷物より安いというネットの特性を活かして、画像を沢山使うこと。それはまた、安易な安値競争に巻き込まれない為にも必要なことである。朝であれ、夜中であれ注文は入るし、即応性が要求される。それに対応が出来ないと、お客様から選別される憂き目にあう。そういう意味ではコストはかかるが紙の目録はこちらのペースで出来るという大きな利点がある。本・資料をお客様の顔を思い出しながら、じっくりと集めて、在庫の負担が一寸厳しいけど、それでも作製している時の楽しさ、ついでに雑文などを書いて、自分を慰めながらと……良い事だらけと言いたいのだが。こちらが歳をとるようにお客様も歳をとってゆく。新しいお客様の開拓が少し難しいのが紙の目録の欠点である。
 当店の小目録は年4回程だが、既にネットの売上には追い越された。それでも、記録として残り、後で検証出来るというプラス面。そして長持ちしてくれると言うこと。読める目録、楽しめる目録それが当店の目録でもある。出来うれば後世の資料にもと思う。忘れた頃に来る注文の嬉しさは何物にもかえ難い。
 ネットは不特定多数、紙の目録は特定少数のお客様相手と言われるが、共通して言えることは常連のお客様を作らないと、今後は売上の安定増加も望めないと思うし、専門分野を持つ事も必要不可欠である。
 数年後ネットがどのような状況になっているのか予測が難しいが、ネットをしている書店としない書店との格差が広がっていくのだけは確実である。しかし、ネットであろうが目録であろうが、店であろうが、古本屋の基本は変わらない。その事がこれからの出発点でもある。

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