−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年5月号)

 

ペーパーとペーパーレス

青森・林語堂
木村 宏
http://www.mmjp.or.jp/omiya/

 

 紙の目録は十七年前からやっています。その当時からのおつきあいのお客様もいらっしゃいます。一時は売上げが激減して止めようかと思いましたが、なんとか部数を減らしても、いまでは毎月発行しています。それまでは、目録を印刷するためだけに、ワープロでデータを作成していましたが、いまは、ネットにアップするデータをそのまま紙の目録の印刷版下にするだけで、そう手間はかかりません。
 ネットをやるようになったのが八年前で、「日本の古本屋」には、初期の頃に入ってやっていました。その頃はデータをフロッピーディスクに入れて、郵送していました。二ヶ月経ってもデータを更新してくれないので、催促の電話をした記憶があります。いまでは考えられないのんびりした時でした。
 ネットをやるようになってから、帳場で本を読んだりすることができなくなるほど、忙しくなりました。毎日九時間はパソコンに向い、飯を喰う暇もありません。古本屋はこんなはずではありませんでした。
 うちでは、本とお客を五段階に分けて考えています。古典籍というのはなかなか入りませんが、和本だとか専門書などは、「日本の古本屋」にデータを入れております。値段も高いものばかりです。次に価格の手ごろな趣味本や絶版文庫などは「スーパー源氏」に入れております。そこまでの本を紙に印刷したものを毎月の自家製目録にしまして、どちらかというと、パソコンのない方、年齢的にも高い方にお送りしております。また、その目録はホームページからダウンロードできるようにも公開しております。
 仕入れで入ってきた本で、バーコードのついた本、ISBNコードの付いた一般的な本は、それまで均一価格で店頭売りでしたが、それはそれで、「アマゾン」のサイトに出しております。比較的若い客層で、十代、二十代が中心かと思われます。
 箸にも棒にもかからない本は処分の前に店内で安く販売しております。
 ネットだけでもどこでもそうでしょうが、掛け持ちで忙しく、本を読む暇もありません。毎日バタバタとデータ入力に追われています。
 検索ができるということで、いままで何十年も探してきた本が即時見つかったと、メールでお客様に喜ばれ、「古本屋さんって偉大ですね」と、誉められると、何か嬉しく、それもネットの力なんだなと、検索機能が古本業界に与えた力の大きさを思います。
 これからも、この五段階でずっとやってゆくと思います。ただ、時代の流れで力の配分は変わってくると思います。ネットは便利だけれど、どこの店も他店の価値を見ながら、値下げしてゆき、セリでは上がった価格が、ネットでは逆にセリ下がるという弊害もあります。
 いままでは、他店の古書目録を眺めながら相場の勉強をしていたのが、ブックオフなんかに行きますと、シロウトの若者たちが、携帯電話でネットの価格を読み取りながら、セドリしているのが目立ちます。いまや、古書価は誰でも即座に判る時代です。年季のいる仕事ではなくなるのが怖いような感じがします。

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