−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年5月号)

 

目録とネット販売は水と油か

福岡・葦書房
田宮 徹男
http://www.ashishobo.com/

 

 「見開きに値札の糊跡が付いているので返品します」「送って来た本を見たら小口が焼けているので返品します」。このように従来の古本販売を行ってきた常識からすると考えられない事が、次々と飛び出して来るのがネット販売では常態と言える。さて、ここで「古本を買うのにそんな小さなことを言う人は買う資格が無い」、と言ってネット販売と決別するか、多勢に無勢とおとなしく従うかの岐路である。
 私の店では平成十一年の九月に三千点程でネット販売を開始、初めの売り上げは月に三十万前後、六年半を経過した現在五万五千点をアップしてその五倍前後である。月に四百人前後の注文で、単価平均すると三千七百円位かと思う。この数字は十万円以上の商品が常に何点か含まれている数字ではある。
 現在までのネット販売を振り返って見ると、ネットは古本屋である私の商売にとって、最適の媒体であると思っている。紙の「目録」では千七百部程の発送で固定客からの注文を待つが、ネットでは日本中はもとより外国からの注文も入り、アップさえしておけば倉庫で十年以上寝ていた本だって、飛び立って行ってくれる。このように書くとネット様々のようであるが、実は、結構経費と手間の掛かるのが実情である。
 前述のように、クレームとも思えないようなことから、メールの受信・返信と、売れた本の削除などの在庫管理と、結構な時間が取られる。今私のところでは発送と入力業務で完全に二人は取られ、給料コストもバカにならない。
 もう一つネットで上手いくか否かの条件は仕入れである。要はいかに店への持ち込みと、宅買いがあるかにかかっていると言っても過言ではないだろう。特に地方では、市場の仕入れはおのづと限界がある。したがって仕入れの豊富さも重要な要素の一つだと思う。ネット販売を通して感じることは、自分の先入観を持たずに、すべてのジャンル、時代も江戸から現在までを載せることが肝要かと思う。何がヒットするか判らないのがネットの面白さでもある。
 そこでネットという新しい媒体を使った販売形態が、今後の古本屋に与える影響を考えて見ると、もはや、我々の古本業はネットを無視しては営業はなりたたない、と私は思う。市場に出品される本の量一つを取って見ても、稀覯本や資料性の高いものは別として、一般的な本の数は確実に減少している。これは今まで自分の店で不向きなものは市場へ出していたものでも、取り敢えずネットに載せて見ようという傾向からであろうか。次にネットでの価格競争の結果、市場での値崩れを起こし、皆出品せずにネットで更に安く値付けをして売るという悪循環のためであろう。また私の専門分野で言うと、今まで市町村誌などは豊富な在庫を武器に独壇場であったものが、たちまち値崩れを起こし、値下げを余儀なくされている現状を考えても明らかである。したがってネットで販売をしている、していないに係わらず、我々古本屋は媒体としてネットを無視出来なくなってしまったと思う。
 さて、このように書いて行くと、私の柱でもある本来の「文献目録」は、おろそかにしているように見えようが、ネットの売り上げは全体の二割位である。今、店頭売りは期待出来ず、その大部分を年に三回発行する「九州の郷土誌を中心とした西日本文献目録」が稼いでいることになる。
 本誌昨年一月号に書かせて頂いたが、これからは従来の活字を羅列したのみの目録では、ネット販売と比較して、お客に届くスピードの違いやコストの面を考えても太刀打ち出来ないから、確実に消滅していくであろう。私の場合で言えばオリジナリティのあるものとか、資料性の高いものは、ネット販売には不向きであると思われ、要は、差別化を図り、写真を載せ、解説をじっくりと読み込んで頂けるような目録であれば、生き残れるはずである。したがって今後は目録とネット販売は、おのずと棲み分けが進むものと思う。

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