−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年5月号)

 

地方古書店からみた
目録とネット販売

水戸市・とらや書店
中川英治
http://www.assets-net.com/toraya/

 

 古書はネット販売に向いているものだ、というのが今の私の率直な感想です。
 私の店がある通りは、水戸駅前で以前は最も繁華な商店街でした。
 昨今、どこの地方都市でも最大の問題である中心市街地空洞化の波に揉まれて通行人は数分の一になってしまいました。
 私が目録販売を始めたのは30年前、ネット販売は「日本の古本屋」が誕生してすぐに入会させて頂いたので約10年になります。
 この二つが無ければすでに閉店していたと思います。
 古書目録を初めた頃は苦戦しましたが、地方史に特化してからは何とかなってきました。
 目録は自分のペースで仕事が出来て、さらにその目録によって私の扱ってきたものが活字として残ります。
 それは古本屋冥利に尽きるといえるでしょう。
 ところが、目録商品だけを仕入れるのは不可能で、自然と入荷して在庫の山となる一般書の販売方法がなく、それが一番の悩みの種でした。
 従業員を雇って店を広げるのもひとつの方法だと思いますが、私の場合は熱心に働くタイプではないので向いていなかった。その時、「日本の古本屋」が始まりました。
 地方の古書店からすれば、それはルネッサンスのようなもので、自店の目録に向いていない本でも、ネット販売を利用すれば自在に販売することが出来てしかもお客様は全国にいる。
 保管する倉庫代は都会よりはるかに安い。
 私の店はネット販売のおかげで目録の御客様が増えました。その方々は古書目録でも注文を下さいますが、ネット経由での注文もあるから、読まれていないことにガッカリするときもあります。ただし、ネット販売に全面的に依存することはありません。
 私の場合は、あくまで目録が中心で、ネット販売はそれを補完する道です。
 年齢を考えれば、私が古本屋をやめるまでは古書目録の生きる道はあると思います。
 ゆっくりと目録の頁をめくる楽しみをネットで再現するのはまだまだ先だと思うからです。
 しかもネットは掲載点数が多く、全点を見るのは不可能です。関連書籍を探すのも難しい。
 多くは検索システムを採用しているので、正確な書名や著者名がわからないと見つけにくい。だから、目録とネット販売は両立することが出来ると思います。
 目当ての本を探すのはネットが断然優れている。足を棒にして探し回ることは昔話になってしまいました。
 「おや、こんな本があったのか!」という喜びは古書目録のものです。
 稀本や自筆本は解説が必要なので古書目録が適しています。
 私はそのように媒体を分けています。
 それにしても、誰が古書業界という古い体質の商売にこれほどパソコンが浸透すると予想したでしょうか?
 私の店でも古書目録はパソコンで製作し、送料は安いメール便を利用しています。
 電話で注文を受けるのは楽しみでもあったが少なくなってしまいました。今はFAXが多いが、やがてほとんどメールに変わるでしょう。その時代が良いことなのか、恐ろしいことなのか。
 これからの古書店は専門化が進み、その上ネット販売の店と、古書目録の店とにわかれるかも知れませんが、私は古書目録にこだわっていきたい。
 半分はネット販売に依存しているのに。

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