−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年6月号)

 

ロックしかなかったから


 東京神田・ブンケン・ロック・サイド
山田玲子
http://homepage2.nifty.com/bunken/

 

 ロックの洗礼を受けたのは小5の春だった。
 近所のレコード屋から流れていたドアーズに、ハートに火をつけられてから30年、ハートの火は消えぬままに、現在私はロック関連の雑誌、写真集、書籍を扱う古本屋を営んでいる。
 生まれた家が古本屋だったが、まるで興味がなかったので、まして子供のころに、自分が古本屋を天職にしようなどとは考えていなかった。
 20代最後の頃、父が突然、神保町に店を出すと言い、他店で修業をしていた元夫といっしょに店を手伝うことになった。ここまでは良かったが、しばらくして、私の離婚勃発により人生が180度転換し、私に残ったのは古本屋だけ。「これからどうすんの?」と泣き続けて一ヵ月、「自分の頭の蠅は自分で追えってことなのね」と開き直った。これからは、迷惑かけた父のためにも古本屋を続けなくては女がすたる。でも、何の修業もしたことがない私に何にができるんだろうと思ったら「ロック」の三文字が浮かんだ。
 当時ロック雑誌を専門に扱う店は少なかったので、親もあきれたロック娘の私ならきっとできると拳を握った。「私はロックで生きて行きます。玲子のRはロックのR。私のロック魂を店に捧げましょう。」と甘えて生きてきた自分に決別した瞬間だった。そうして一からロック専門古本屋を育てて13年、まだたったの13年。
 自分の最も得意とする分野で食べて行くなら、専門店として恥ずかしくない品揃えは大切だし、勉強も欠かせない。60年代からの定番のバンドはもちろん常識だが、毎年沢山のバンドがデビューするので、まず音を聴いてみてひっかかってきたバンドの情報を集めライヴにも行ってみる。年がら年中そうしたことをやっているので、「このバンドは絶対に当たる」とか「この子たちは女の子がほっとかないね」など、流行りそうな予測はある程度はわかるけれど、99%は直観で決まりだと思っている。
 私の心に舞い降りてくる、キラッとした何かを捕まえたときには「よくぞ私に降りて来てくれました!決して逃がしませんよ」と天を仰ぐ。そうした直観は大切な財産なのだが、どう見ても今年は流行っているけど来年はわからないモノもある。「でも何年か先にヒョコッと出て来たら?そのときに商品がなかったら」と思う見えない恐怖に負けて、つい仕入れると「ただでさえ場所がないのにまた買って」と店の者にチクチク言われ「フンッ悪かったねっ」と悪態をつく。毎日がこんな喜怒哀楽の繰り返し。ロックの世界は古いモノと新しいモノとの共存共栄で成り立っているので手が抜けない。たまに息切れしそうになるときもあるが、愛しているからやめられない。私の居場所はここしかない、前にも後にもロックしかないんだから。

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