−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年7月号)

 

縁日のにぎわいは昔日の彼方

京都・其中堂
三浦了三

 

 早いもので京都古書研究会主催の百万遍古本まつりが、今年の秋、第30回を迎える事になった。店の手伝いで店番したのが、大学1年の時で、27年前のことになる。当時は、石畳の参道に一軒当たり出店台が3台、約60台ほどの出店量でも、十分に「まつり」であり、縁日のにぎわいであった。
 近年は、境内全域を使い、一軒当たり最低10台、軽く4倍くらいの本の量に増加している。それ以上に、夏に催している下鴨納涼古本まつりは、京都府の内外より多数の古書店の参加を仰いでいるので、秋の古本まつりのそのまた倍の出店量になる。
 それ程まで膨れ上がって何が変化してきたのか、業界からの視点で分析してみたい。
 その一つが、ストック在庫のフロー化。これは、価値が形骸化してきた古本を見切る場として、古本まつりが当初認識されていたということ。デッドストックとして倉庫に積み上げられていたものが、「まつり」という表舞台に出て、フロー商品として化けるのである。画期的なことだったと思う。
 それから会場が広くなるにつれ、大量出品の必要から、グロスでの商売を考え、一つ一つの商品に対するこだわりが弱くなりがちになっこと。「ひねる」ということがデパート展を支えてきたとすれば、「売り切る」というのが古本まつりを支えているといえよう。普段よりも安い価格体系にして大量出品し、マスコミに宣伝して多くのお客さんを呼び込んで、採算をとるのである。商品そのものは同じなので、お客さんには魅力的な価格になる。もちろん、現在の古本まつりでも、一点一点吟味したうえで魅力的に売る業者も少なくない。
 また、年に3回の開催となって古本まつり用の在庫を持たざるを得なくなったこと。うまく回転していけば(よい仕入れが続けば)魅力的な価格と品揃えを提供でき、売上を伸ばせるものの、ちょっとつまずくと、屍累々の古本の山との格闘が待ち受けている。古本まつりを始めて何が変化したかといって、その在庫量である。20年前は、8台分の商品を仕入れるのに悪戦苦闘していたのに、いまや同時に3軒分の店を出せるくらいの在庫になってしまった。(あくまで「出せるだけ」であって、商売が成り立つような在庫ではないのは言うまでもない)
 京都の古書業界全体にとって古本まつりの隆盛がよいことであったかどうかは、意見が分かれると思うが、私はよかったとは思っていない。大量出品が求められること、顧客層を共有できること、この二点から組合の交換会取引きの不活性を生む要因になってしまった。店の棚にとって要らないものでも要るものでも、古本まつりへ持っていけば商売になってしまう。交換会取引きの切磋琢磨が古本屋を育ててきたと思う筆者にとっては、交換会に対するスタンスに世代的な断絶が起きたことが残念でならない。
 さて、近時インターネット販売が盛んになって、ストック商品のフロー化とは逆方向、フロー商品のストック化(在庫管理)が必須になった。インターネットでは、いままでグロスで売ってきた商品一つ一つに個性を持たせないと商売ができなくなったのである。
 即売会とインターネット、真逆の性質を持つ商売を同時にこなさないと、これからの古書店営業は成り立たなくなるという昨今の状況は、お客さんは古本を購入してはくれるものの古本屋一店一店の個性には留意してくれない、という古本屋をやっている甲斐のない状況へとつながり、やがて全国古書業界の寡占へと続いていくのであろうか。古本屋はやはり縁日のにぎわいが似合うと思うのだが…。

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