−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年7月号)

 

「モダン古書展」のことなど

大阪・矢野書房
矢野龍三

 

 小店は平均して年に五〜六回の即売会に参加しています。大阪古書組合主催のものから数店の有志によるものまで形態は様々です。会場も組合のフロア、百貨店、又は大阪天満宮境内など野外での催しとバラエティに富んでいます。
 どの会場でも必ずといっていいほど耳にするのが「即売会で売れなくなった」「昔は初日だけで○万円は売れたのに、最近では…」という古書店の嘆きの声です。又、お客様についても「熱心なお客様が減った」「若い人があまりいらっしゃらない、本ばなれが進んでいる」ともいわれます。果して本当にそうでしょうか?もしそうだとしたら、即売会を運営する私共の側にも問題があるのかもしれません。
 昨年の四月、大阪古書組合一階で第一回「モダン古書展」が催され、古書店の仲間と共に運営に当りました。〈モダン古書〉という新しい切り口で、それぞれの店が自己流のモダンな古書をセレクトして目録を発行し、一階フロアでの即売会、そして六階のギャラリーでは生田敦夫コレクション(仏文学者故生田耕作氏のご子息でその明治大正文学の蒐集を踏襲されたもの)を展示させていただきました。あわせて生田敦夫さんに講演もしていただきましたので、忙しさはたいへんなものでした。特におあずかりした美麗本の展示には気をつかいました。そしてその準備に追われて迎えた緊張の初日、若い人達が数多く詰めかけて下さり、女性客も他の即売会に比べて圧倒的に多く、展示会の方も盛況で、会期前の苦労が一気にむくわれた思いでした。
 そして今年の四月、「モダン古書展その2」を開催しました。今回は特別企画として、谷沢永一先生によるトークショーを催しました。先生の古本をめぐるお話しは大好評で来場していただいた方のアンケートを見ても皆様満足して下さったようです。又、即売会の方も前回同様たくさんのお客様に来場いただきました。
 昨今、業界では「日本の古本屋」やホームページによるインターネット販売が盛んです。研究者や図書館も収書の手段をインターネットに移行してきているようです。又、若い人の古書店ばなれに一役買っているということも言われています。確かにある意味では古書という商品はインターネットでの販売にはむいているのかもしれません。しかし、「モダン古書展」でのお客様の雰囲気を見ていますと一概にそうとも言いきれないと思います。情報としてだけの本ではなく、かたちとしての本という見方をする時、全く話が変ってきます。例えば彩色木版画装の本や凝った装幀の限定本などは一種の工芸品であり美術品といえるのではないでしょうか。そんなに大げさなものでなくともかたちとしての本を丁寧に扱うことが、これからの古書店には求められるのではないでしょうか。つまり世の中のデジタル化が進めば進むほど、その反作用として、情報としての本とだけではとらえきれないかたちとしての何かを担っているように思われます。
 いささか大層な話になりましたが、丁寧に扱われた本を実際に手にして吟味する楽しみを多くのお客様に味わっていただくことが、低調だといわれている即売会を好転させるヒントになるかもしれません。

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