−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年7月号)

 

古書即売会の様々な展開
―ブックバザールの試みを中心に―

東京吉祥寺・古書りぶる・りべろ
川口秀彦

 

 現在私が定期的に参加している古書即売会は、目録を発行するものでは、東京古書会館のぐろりや会(年六回)、南部古書会館の本の散歩展(年二回)、銀座松坂屋で開かれることになったブックバザール(年一〜二回)、目録を発行しないもので新宿西口古本まつり(年二回)と平安堂長野店古書まつり(年二〜三回)の五種類ある。それぞれが他の即売展にない特徴を持って展開している。
 ぐろりや会の目録は従来の左開きタテ組に右開きのヨコ組を加えた会館展目録としては厚目のもので、会のホームページにも目録をアップしている。本の散歩展は著書を持つ古本屋が四人もいて、この春の二十回記念展では岡崎武志さんをメインに五人での大サイン会を開いた。新宿西口古本まつりは首都圏最多の参加店数が売りものである。平安堂のものは、あのリブロ今泉棚の今泉正光氏が店長に迎えられた関係で、リブロ店員から古本屋になった三人に元新刊書店員の私が加わって、昔のリブロのような品揃えを特徴としている。最後に残ったブックバザール、これが私の参加している中で最も実験的なことをしている即売会である。
 ブックバザールは、本や紙類だけでなく、消しゴム版画の蔵書印や手書きのしおり、手作りブックカバーなどの関連小物から玩具、雑貨類など、見てたのしくなるような商品も同一会場で扱っている。絵本の読みきかせや、絵本原画の展示もしたりする。ここまではアンダーグランドブックカフェの試みと似たようなものだが、目録にも一工夫してある。前身の府中伊勢丹での即売会で目録を担当していた私に、会長のポラン書房石田さんが要求したのは、読んで面白い、親しみやすい目録を作ってくれということだった。まず参加店に自己PRのエッセイか自店広告を半頁で出すように求めたが全店が応じたわけではなかった。そこで巻末の参加店一覧に店主か店の一行紹介をすることにした。石神井書林さんのエッセイ風目録という成功例が出て、エッセイを書く人が増えた。現在のバザールの目録は、古書の商品リスト以外に、エッセイ(古本屋でない書き手もいる)、イベント案内、参加店とその仲間たちの広告など、様々な要素が入っていて、古書目録としては特異なものとなっている。
 なぜこういう目録を作るのかといえば、旧来の古書即売会のお客様以外に客層を拡げたいという思いがあるからだ。バザールやアンダーグランドBCの会場での雑貨販売やイベントも同じ目的だろう。古書リストだけの目録、ジャンルや並べ方、編集に工夫を加えたものだけでは客層の深化はあっても拡大はないのではないか、顧客の世代交替が成り行きまかせでは先細りの現在、とりあえず古本に親しみ、古本屋を利用する人をいくらかでも増やしたいという気持ちが、ポランさんや私には共通してあった。産直野菜に生産者の顔写真がついているのにならって、古本という商品のリストだけでなく、店や店主を知ってもらうことが利用への手がかりになるのではないかと思って始めたことが、参加店やそれ以外からの寄稿もあって現在の形になってきた。発行部数も六千五百部という、かなり大きなものである。
 ブックバザールのような新しい客層を獲得するための試みは、これから増えてくるだろう。ジリ貧の店売のみならず、総体で古本を買う客層を拡大しないことには、私達古本屋の将来はないからだ。ささやかながら私も微力を尽したいと思っている。

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