日本の古本屋へ

トークライブ『古本屋さんの作り方』見学記   月の輪書林  高橋 徹

この一週間、『東洋女子商業報国隊日記』と題した戦時下の女子学徒隊徴用日記を読んでいる。
読みながら抜き書きしている。
何とか売ってやろうと思うから自然力が入る。
筆圧が強ければ売れるってもんじゃないけれど。日記が途絶える敗戦の日まであと少しのところで、つまずいた。
こんなことってあるんだろうかと鉛筆を置いて考える。粗悪な紙のせいでインクがにじんでいるが、こう書いてある。
昭和二十年七月二八日のところだ。
「その時、空襲中であった。武蔵野音楽学校(報国隊)の方々がピアノをひいたり歌を歌ったりしていらっしゃった。とてもお上手で聞き入ってしまった。私達は女性総進軍を歌った。十二時半まで広場で楽しい一時をすごした」
空襲の中、工場の広場でピアノをひいたり、歌を歌ったりする女子学徒の姿を想い描いてみる。
シュール、としか言えない。
待避壕に何で逃げ込まないんだろう?「空襲中」とは遠い国の話しでなく、日本の、しかも東京のことじゃないのか。分からない。大きな読み間違いをしてるんだろうか。何でB29が徘徊する戦時の真っ只中、しかも航空機製作工場の広場にピアノがあるんだろう。

驚いた。百人はゆうにこえているじゃないか。若い人が多いな。

女子学徒隊日記は、七月二八日のところで煮つまって投げ出し、竣工間もない新会館(東京古書会館)に駆けつけた。今日は、記念イベントの一つ、「本屋さんの作り方」というトークライブがある。古書月報に一本、見学記を書かなければいけない。
 百五十人近くまでいってるんじゃないか。


トークライブに聞きいる…

告知もままならなかっただろうに、よくこれだけの人が集まったな。
「本屋さん」に興味がある人がこんなにいることに驚いた。若い女性が目につく。古本屋さんは少ない。

新会館の二階が会場だ。ここは市会を開くんじゃなくて残置品置場になるんだっけ。壁という壁、大きな柱にまで鉄板が巻いてある。カーゴや台車、しばりがぶつかっても大丈夫という訳か。さわるとちょっと冷たいけど、これが新会館の味だな。南部古書会館も初めからこうしとけば補修費はかからなかったのにな。五反田の痛んだり、黒ずんでしまった壁を思ったりしているうちに講演の幕があく。

 落ちつきある永江朗さん(フリーライター)の司会のもと北尾トロさん(オンライン古本屋)、平林享子さん(オンライン書店)、田中淳一郎さん(新刊書店)が何ユエニ本屋ニナリシカを語り始める。

 少し酔ったようだ。次はもう蒲田駅。

 「赤字だから楽しい」、か。今日の話で一番印象に残った言葉。

「赤字でいいや、そう決めたら、気持がとても楽になった」。そうも平林享子さんは言っていた。

向かって左から北尾トロさん・平林享子さん・田中淳一郎さん・永江朗さん

きっと「赤字」に見合うよい仕事を今、しているんだろうな。肚の据わった、前向きな言葉だと思う。
 さて、店に寄って女子学徒隊日記の続きを書こうか。

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