中央線支部 支部長の書店巡り

中央線支部
支部長の書店巡り vol.20



げんせん館  八王子市高尾町 2030 TEL : 042-684-9119


 店主は坂田昌子さん。明治大学在学中に小宮山書店でアルバイトをしたのが古本屋になるきっかけだった。本が好きだったから古本屋に入ったが、暫くすると本を値付ける面白さ、また古本の多様性に興味が湧いてきた。職場で出会った坂田さんと結婚して三鷹で店を持ったが、間もなくご亭主が病に倒れ、長い闘病の末今年初め亡くなった。この間昌子さんは女の細腕(実際には太腕だが)一本でたくましく仕事を続けていまに至っている。

現在は店は持たずに年に 15回ほどの催事と「日本の古本屋」で商売をしている。仕入は、三鷹時代の顧客とのつながりがいまでも続いており八王子近辺の人たちからの依頼もあって大部分が宅買い。市場は売りに使うことはあっても仕入に使うことはほとんどない。ユニークなのは新宿のホームレスから週に 1度の割合で本を買い入れていることだろう。この関係は約 15年と長く、昌子さんが必要としている本を彼等に教えてあり、心得たホームレスの人たちはそういった本を集めておいてくれる。

本部からの帰路、前を通りかかると、「かあちゃん!」と手を振る。「かあちゃんって呼ぶな。手を振るな」と五十路の半ばに差しかかった昌子さんは嗄れた声で怒鳴りながらも人なつっこい笑顔を見せて本を車に積みこむ。買値は宅買いの場合と同じだ。買い取った本は高尾から車で約 1時間の藤野にある倉庫に運ぶ。

60坪の倉庫には 1軒家が付き、畑もあって、車4,5台は置けるスペースもあり家賃は僅か 6万円。好景気だった頃の若い時よりもいまの方が豊かになっている気がする。大金は要らない、そこそこの収入があればやりたいことを気ままにした方がよい。人間関係も広がり充実しているし、5年前から主催している「八王子古本まつり」は責任も重いが楽しい。5月初めに 10回目を終えた。東京近在 21軒の古本屋が集まり対面販売を楽しんでいる。

人が集まるので地元の商 店街も喜んでくれるし、八王子市も市内 24の大学も協力してくれる。古本にはリサイクルの側面もあるが、捨てられた本に評価をつけて救い上げるのが古本屋の役目、書籍文化の防波堤だという。昌子さんは実は単なる古本屋のかあちゃんではなかった。インタビュー時には話してくれなかったが、国連生物多様性の 10年 (UNDB)市民ネット「虔十の会」の代表も務めている。高度経済成長と引き替えに得たものは環境破壊であった。高尾山の自然環境も例外ではない。自分に素直に、楽しく逞しく行動をしてそれが心の豊かさにつながっている素敵な女性だ。(K)

(この記事は中央線支部報2014年6月号から)


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