ふらり、お店探訪

聞き手 西平守次 (球陽書房)

     聞き手 五本木広子(苔花堂書店)

青木書店
この通り(中通り商店街)は飲食店や風俗店なんかも結構ありますけど、昔はどんな感じだったんですか。
青木
 物販が多かったよね。飲食店は喫茶店ぐらいで。当時はここの商店街でも大晦日は夜通し営業しているような雰囲気で、年中無休の店も沢山あった。うちも朝九時頃から夜九時頃まで営業していて……。今は木曜を休みにしてるけど、以前は定休日も無かったんだ。ただ、子どもの学校行事や、家族旅行なんかではよく休みにしたけどね。今は若い人がお店をやってるでしょ。こんな風に賑わうようになったのは十五年ぐらい前からじゃないかな。

高円寺の駅を中心にしていくつかの商店街があるが、一番賑やかなのはやはり駅北口を出てやや左側からまっすぐ続く、かつては「高円寺銀座商店街」といった「高円寺純情商店街」。「中通り商店街」は左手中央線高架に並ぶように続く。球陽書房、都丸書店、青木書店と続きさらに進むと、事務所のみだが竹岡書店、古本酒場コクテイルと続く。駅の近くはかなり「ピンクな雰囲気」があるが都丸書店の先のうなぎ屋さんを過ぎる頃にはそういう雰囲気はだいぶ減る。中通り商店街に限らないが、古い店や建物が建て替えられてマンションになってきてはいるが、高円寺の商店街ではまだ若い人が古着屋や雑貨屋やそして古本屋など小さな物販店を開く余地が残っている。定着する店もある反面、消えていくお店も多いがその後も比較的早く次の店が入っているようにみえる。最近はちょっとお洒落な店が増えたかな。

今回同行いただいた球陽書房さんの創業は昭和二十五年。西平さんは「休みは月に二日だけだったから、子供の頃に家族でどこかへ行く、なんていう経験はなかった。」との話でした。今も昔もご商売をされている方はそういうものかもしれませんが、そう考えると青木さんはかなり「マイホームパパ」だったのかもしれません。
青木
 失敗した話と言えばね、荻窪の清水町にあった立派なお屋敷に宅買いに行ったんだけど、すごい本ばっかりで驚いちゃって。無事買えることになってトラックを連れて行ったんだけど、舞い上がっちゃったのか、お金を持っていくのをすっかり忘れちゃってさ(笑)。「こんなに良い本を買える機会は二度と無いかもしれないのに」ってガッカリしたんだけど、「とりあえず半分だけ持って行きなさい」と許してくれた。他にも失敗は沢山あるけど、お客さんにはかわいがってもらったよ。  努力すれば色々できたんだろうけど、生来遊びにばかり力をいれる質だからね。仕事はボチボチっていう感じで、いつも旅行のことばかり考えてたな。
少しぐらいは成功した話も聞かせてよ。
青木
 成功なんかしてないよ(笑)。真面目に同じことを繰り返していればそれなりの成果を得られるのが古本屋っていう商売でしょ。ただ、これから始める人は偉いと思うけど、本当に大丈夫なのかなと心配になるよ。昔は苦労しなくても売り買いできた。本の値段は下がらなかったしね。この頃はバブルの時代に買ってくれた人がみんな売りに来るけど、当時の値段を基準にしているからとても買えない。私ぐらいの年代だからこんなに長く続けられたけど、これからは先が見えないでしょ。
もう少し前向きなことを言おうよ(笑)。
青木
 だけどね、昔よりも本が売れないのに家賃も払って、市場で売り買いもして、どうやって生活ができるのか、こっちが聞きたいぐらいだよ。今から何十年も古本屋をやるっていうのは、正直私には厳しいな。まあ、元気なうちは続けたいと思うよ。   若い頃は私にも少しは欲があったけど、年を重ねていくうちに穏やかな人生を送りたいっていう気持ちが勝ってくるんだ。古本屋が良かった時代は色々な人が店をビルにしたでしょう。私もそうしようかと考えたこともあるけど、無理はせずに、のんびりやった方が性に合ってると思ってさ。ここに座り続けて六十年近く……それだけの間古本屋でいることができて悔いはないよ。こうすれば良かったという心残りも全然無い。悩んだって理想と現実はなかなか一致しないし、上を見たらきりがないじゃない。ほどほどの人生、ほどほどの古本屋で良いんだよ。
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