中央線支部 支部長の書店巡り
中央線支部
支部長の書店巡り vol.10

コクテイル書房
杉並区高円寺北 3-8-13 TEL:03-3310-8130
JR 高円寺駅北口を左に出て北西に走る北通り商店街があり、北中通りがこれに続く。コクテイル書房は北中通りの終わりに近い場所にあった。今時珍しい二階建て四軒長屋の一角である。
100年ぐらい前の建物だそうで、何だか時代劇に出てきそうな佇まいだ。それも素浪人の家で、 外で赤ん坊背負った子供が「ちゃん!」と呼ぶと、外の眩しさに目をしばたたきながら出てくる男が店主の狩野俊さんだ。
江戸期の浪人は本の普及に大きな役割を果たした。この店は元々肉屋だったとのこと、その名残が梁からぶら下がっている肉塊を吊す鈎だ。天井を剥がし梁を見せて空間を広げ、壁を塗り替えて暗い店内を明るくし、棚に並ぶ古い本が落ち着いた雰囲気作りをしている。2階に上がる急な階段がまたいい。初めの頃は2階に暮らしていたが、いまは店としても使い、本の倉庫にもなっている。
狩野さんは15年前26歳の時、国立で古書店を始めた。学生の多い街なので直ぐに彼等のたまり場のようになって酒を出すことになった。そして本よりも酒の方が売れるようになり「古本酒場」となって、現在に至っている。本は神田で仕入れて、店とネットと即売会で売っている。狩野さんの一日は、朝起きて子供を保育園に連れて行き、そのまま飲み屋の仕込みをする。10時頃買い物をして一旦家に帰り、奥さんと酒肴の相談をして奥さんは担当の料理を造り、狩野さんは店で煮物をつくりながらパソコンでネットの仕事をする。夕方保育園に迎えに行って早めに夕食を家族でとり6時に店を開けて12時に閉める。その合間に神田の市にも出掛ける忙しい毎日だ。組合のルート便にはその点とても助かっている。ネットはアマゾンと日本の古本屋を使っている。訪問日は5月第3日曜日だった。
この日から11月まで月に1回北中通商店街の北中夜市がある。コクテイル書房の入口付近にも本が並んでいた。各商店とも街の活性化に懸命である。最近『墨東奇譚』を初版本で読み、文庫本で読んだときとは全く異なる感慨を得た。著者とその時代、挿絵、装丁、活版活字、用紙、これらが総合して作品を創り上げていると思う。安価に作り直した本や、電子ブックや文庫本では決して味わうことのできない、このような古書の魅力をこれから伝えていきたいと考えている。(K)
(この記事は中央線支部報2013年6月号から)