ミスター神保町 八木福次郎さんを偲ぶ




偲ぶ会にて
紀田順一郎さん(作家、評論家)

八木福次郎さんがお亡くなりになったことはもちろん非常に残念なことです。ですが、「古書のジャーナリズム」とでもいうのでしょうか、それは消えることなく、若い樽見さんにしっかりと受け継がれています。長く福次郎さんと共にあった方なので、大丈夫だろうと、この点は安心しています。後継者をお育てになったことは、数ある功績の中でも特に立派なことだったのではないでしょうか。いつの時代も古書の魅力を伝えてくれる人は必ずいます。樽見さんはもちろん、最近では岡崎武史さんも活躍されていますね。ただ、福次郎さんのコラムが読めなくなるのか、と思うと寂しいですよ。「こんな話がありますよ」という「情報のコラム」と、人物に焦点をあてて伝える「味のコラム」とがバランスよく兼ね備えられていて、本当にお上手でした。古いことから新しいことまで、その書物の価値やおもしろさを一般の方々にわかりやすく伝えることが出来たのは、福次郎さんの個性によるところが大きかったと思います。
 
 最近は電子出版などで世間が騒がしくなっていますね。僕も含め、古書業界に長く深く関わっている人間は、この世界が少しずつ変化している様を感じています。僕らのような愛書家が好む古本は電子化されにくいですが、学術書はどんどんデジタル化がすすんでいます。古書店の得意な分野も、本来の古書らしい古書はだんだんと減って、サブカルチャー系が増えてきました。福次郎さんご自身は「電子的なものには興味がない」とおっしゃっていましたし、書籍の電子化に対する明確なお考えを表したことはなかったと思います。ただ、こうした業界の変化はご自身で、それから樽見さんを通してご覧になっていたでしょうし、何らかのお考えは当然お持ちだったと思います。ただ、僕と福次郎さんとの間で「本の話」といえば、ある蔵書家の棚の後ろからヘビが出てきたとか、そんな話ばかりで電子化の話なんて殆どしませんでしたね。僕が書いた古書ミステリーに「あなたには言いにくいけど、長く生きてきて、古書でもって誰かが人を殺した、なんて話は一点もなかったよ」って言われたこともありました。「リアル」じゃない、と。探している古書が誰かの手元にあったとき、「『この人さえいなければなぁ』と、思うことくらいはあるだろうから、僕はそれをふくらませて書いているんですよ」って、一生懸命防戦したことも今は懐かしい思い出ですね。

いずれにしても、もうちょっと頑張っていただいて、本の電子化のことをお聞きしたかったですね。福次郎さんのことです、上手に折り合いをつけていかれたのではないかな、と想像しています。




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