東京古書組合

ここの本棚は、この町に住んでいる人たちが作ってくれた棚でもあるんだ、という喜び


宮地■ぼくは今年の4月で50になったんですけど、そろそろ「どうやって閉じていくのか」っていうことも考えていかないと、せっかくこれまでいろんな方に譲っていただいた本が、完全に無駄になっちゃうなと。組合に入る以外に持って行き場はないなと思いました。実際的な理由はそれが一番大きいです。

あと、それと関係したことですけど、この場所にいつまでいられるかもわからない、というのもあって。毎月家賃を払っていくのはやっぱり大変だし、何か不測の事態があるかもしれない。でも、どこか別の場所、もう少し身の丈にあったスペースなり家賃なりの場所に移るにしても、今のこの状況だと移れないんですね、量が多すぎて。だから店にあるものを少しずつ整理して減らして身軽になりたい、っていうことも考えました。

もう一つは、始めに言いましたけど、せっかく古本屋になったのに、しかも割と近くに古書会館もあるのに、全然何も知らないで一生を終えるのはもったいないなあ、っていうのも大きかったです。信天翁の二人も独立したとき組合に入りましたし、「ぼくも見てみたいな」っていう純粋な気持ちはありました。ただ、なんかちょっと今さら入るのも気恥ずかしいし、格好悪いというか、ばつが悪いなという気持ちもあって(笑)。中山さんに相談にいったら「全然いいよ」みたいな感じで、それで思い切りました。

 

広報■最初に話された地域のなかで完結していくこと、回していくことっていう考えはクリアできましたか?整理することに対して。

 

宮地■初めてみえるお客さんに、ふとした会話のなかで「うちは組合に入ってない」ってことをお話しすると、みなさんびっくりされるんですよね。それで「ここにある本は、この辺に住んでいる人たちが持ってきてくださったものなんですよ」っていう話をするんです。店をやってるのはぼくたちだけど、ここの本棚はこの町に住んでいる人たちが作ってくれた棚でもあるんだ、ということが大きな喜びだったんですよね。なので、それが無くなることに対しては、「残念だな」っていう気持ちがありました。ただ、じゃあ市場で買った本がうちに並ぶようになったのか、というと、じつは全然落札できてないので、その部分については杞憂だったというか(苦笑)。基本的にはこの先も、うちに売りに来てくださった方の本が並ぶことになると思います。

逆に、今回、出品するようになって知ったんですけど、市場では、買った人は誰から買ったかはわからないけど、売った人は誰に売ったのかがわかるじゃないですか。これまで縁もゆかりもなかった神保町の老舗に、うちにあった本が流れていって、そこでどうなるのかはわからないけど、ともかくそういう風に循環していくのが目に見えるのはすごく新鮮で。うちじゃ絶対売れないものや、お客さんから買ってずっと並べていたけど結局売れませんでした、という本を、また仕舞い込んでもしょうがないし、だからといって捨てるには忍びないし。最終的に難しいものでも市場に出せば然るべき所に行くっていうのは、凄いことだなあと。精神的にもほんと助かります。

 

*****

 

宮地■今、本を売りたい人が多いですよね。でも「大量の買い取りがあるんですけど」って言われても、ほんとに大量だとうちは受けられないんです。今までは無理無理で受けてきたんですけど、その都度どかっと在庫が増えて、やっぱりもう無理だなっていう気持ちもあって。今回、組合に入ってみて「物凄く大量の買い取りでも受けることができるな」っていう安心感はありますね。今は毎週ちょっとずつでも出品に出かけて、市場にも組合にも体を慣らしていく期間かな、と思ってます。ようやく、ちょっと緊張しなくなってきました(笑)。

 

広報■緊張しますか?(笑)

 

宮地■緊張しますねぇ(笑)。最初に「今月の新加入者です」って、総会みたいなところでご挨拶したんですけど、目の前に古本屋がずらーって並んでいて「あぁ!知り合いがほとんどいない!ここ20年くらいの人生で一番のアウェーだ」とか思って。ただ、そういう緊張はするんですけど、全然面識のない方でもわからないことを聞くとすぐに教えてくださるし、そういう意味では同業者同士の緩やかな、シンパシーとまでは言わないけど、そういうものはあるのかなって。ただ、ぼくも人見知りだし、古本屋も人見知りな人がけっこう多そうだし、全然知らない人といきなりおしゃべりするというのはなかなかないけど、少しずつやっていけるんじゃないかなみたいなことは思って。あとは、市会の一日研修っていうのが、すごくよかったです。水曜日の東京資料会に行ったんですけど、一日の市場の流れがとてもよくわかりました。

 

広報■組合としては「市場の担い手をつくるため」っていう目的が一応あるんですけど、どこかで修行されて独立して、組合のことよく知っているよ、という以外の方も多くなってきたのでやり始めたんです。

 

宮地■一日体験をしたあの日に、本当にたくさんの古本屋さんたちが、組合を維持していくために働いているんだなっていうことを実感しました。「いよいよ入るぞっ」ってなった時、文京支部長の港や書店さん(当時)に挨拶に行ったんですけど、組合に入るとどういう仕事をしなければいけないのかってことをお聞きして。「とにかく仕事が回ってくるよ、とくに文京はちっちゃいから。去年入ったBOOKS青いカバさんも、もう今年やってるよ」って。そりゃそうだ、これだけのものを回していくには、いろんな人が何かしらやっていかないと、回っていくわけないよなって思いました。

 

広報■それは嫌じゃなかったですか?

 

宮地■「嫌じゃない」というか、入るまでは「店も大変だし、そんな何かする余裕なんてないよな」っていうのが正直なところだったんですよね。でも入って、見てみて、「こりゃまぁ、しょうがないな」というか、「誰かがやらなきゃ回らないんだから、そこは全然いいんじゃないかな」って見方が変わりました。自分はずっとこの店だけで仕事をしてきて、そういうことを知らなかったので、多くの古本屋さんが、自分の店以外でも、色々な形で仕事をしているってことを知れたのは良かったのかなって思ってます。

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            これがうちの店に並んだらすごくうれしいな

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