東京古書組合

これがうちの店に並んだらすごくうれしいな


広報■組合は相互扶助が基本的な考え方で、市場にしても、出品してくれるのも買ってくれるのも古本屋だし、助けてもらってるんですよね、実際。市場で入札は?

 

宮地■いやあ、それが。このインタビューのお話があって、お会いする前に一度ぐらい落札したいな、と思ったんですけど、なかなか落ちないですねえ・・・。普段の買い取りより高く入れないと落ちないのに、自分がそういう体になっていないというのが一つと、あと、うちにめったに入ってこないようなものについては、純粋に相場がわかってないところもあって、だから落ちないです。この前の資料会かな、1960年代位の時刻表がいっぱい出ていて、「あぁ、これがうちの店に並んだらすごくうれしいな」って頑張って入れたんですけど、なんかもう全然お話にならないくらいの額で落ちて。まあ目の保養にはなるし、見ておいた方が為になるのは間違いないんですけど。むしろ「これがこの値段で落ちるんだ!」っていうのにびっくりしてばかりです。

 

広報■そうですね、僕も店で売れなかったものを出して、店での売り値より高く落札されることもありましたからね。

 

宮地■そういうこともあるんでしょうね。「どうやって売るのかな?」とは思いますけど。だからなかなか買えませんが(笑)ただ、楽しいのは楽しいです。

 

広報■加入されていない人たちに勧められますか?入った方がいいよって。

 

宮地■在庫をかかえているんだったら、入るといいんじゃないかなと。ただ「店の棚をもっと彩り豊かにしたい」という理由だったら難しいんじゃないかなとも思いました。でも、これから始める人はやっぱり入った方がいいでしょうね。

 

広報■これから組合員がどんどん減少していくと思いますが。

 

宮地■そうなんですね、それも全然知らなくて。今、組合が外に開いていこうとしていることはぼんやり感じていたんですけど、元々はそうでもなかったですよね。「別にそんなに人を増やさなくてもいい」みたいな気持ちが根っこにあるのかなって思っていたんですけど、毎月送られてくる機関誌の「組合員が減っている! 新規加入者を増やさねば!」といった記事を読んで「そうなんだ!」と。でも一方で、誰でも彼でも入れるわけにはいかないでしょうし。組合としては増やしたいんですよね?

 

広報■そうですね。組合員がいないと市場が充実しないし、僕らの商売も先細りしていってしまうので。どう、よりよい組合にするのか、というところでやっぱり組合員の確保は必要かなと思います。

 

 

自分のなかのワクワクする気持ちを切らさないために


広報■バックヤードが整理されることで良い影響が出てきそうですか?

 

宮地■出てくると思います。この仕事はすごく楽しい仕事だと思いますし、人にも「楽しいです」って言っちゃっうんですけど、何が楽しいのかっていうと、毎日の仕事はルーティンなんだけど、そこで手にするものは全然そうじゃなくて、しかもそれが突発的にやってくる。そこがすごく魅力だし、飽きないところだと思います。でも、20年もやっていれば少なからず惰性で仕事をしてしまう部分も出てくるじゃないですか。そういうなかでのカンフル剤にはなるかな、と。もちろん良い本を発掘できればそれも良い影響ですけど、そういう目に見えることじゃなくて、自分のなかのワクワクする気持ちを切らさないために、すごくよい方向に働くんじゃないかなって思います。それは物理的にバックヤードの本がなくなることよりも大きいかもしれないなって。

 

広報■それはすごく大事ですよね、気持ちの問題ですから。ちょっと組合についての話からは外れちゃいますけど、10年後、20年後、どんなことをイメージしてますか?

 

宮地■正直言って、あまり明るい未来は想像していなくて。

 

広報■それは全体として?業界として?

 

宮地■うーん、この国全体としても全然ですけど、古本屋っていう仕事の未来が明るくないっていうのはすごく思います。やっぱりインターネットの影響が大きくて、夢はなくなりましたよね。「1円でも安くして売る」みたいな、そういうことに関わらずにやっていきたいんだけど、関わらずにはいられない部分ももちろんあって。リアルで店をやっている楽しさとか、意味っていうのは、お客さんがそこで自分の知らないものと偶然出会って、そこからまた何かが広がっていくっていうのが大きいと思うんです。でも、今はその場でスマホを取り出して相場を調べて高いと買わない、そういう世の中でしょ?しんどいなぁ、って。心折れますよね。この前初めてみえたお客さんが「昔と比べてこういう店も少なくなったし、こういう古本屋大事だよね。美術館みたいだよね」みたいなことを仰って。その言葉自体はありがたいんですけど、見せるだけじゃ食べていけないし、買ってもらわなきゃいけないので。

 

この店はネットへの依存度がかなり少ない方だと思うんですけど、それじゃもうダメだっていうのもわかっていて。組合に入った理由には「『日本の古本屋』を使いたい」っていうのもありました。ただ、その一方で「お店で買って欲しい」という気持ちももちろん強くて。でも、この業界に限らず、お客さんが店でモノを買ってくれる、ということの未来は、この先好転することはないでしょうね。そういう意味での明るくない展望はあります。ともかく、「ここに来てもらいたい」ということと、「ここに売りたい!」って思ってもらいたいっていう、そのことだけを考えてずっとやってきて、途中まではそれでちゃんと回ってきたんだけど、もうそれだけでは難しいので、何か考えなきゃいけないんだけど…。未来を切り拓くような良い考えは今のところないかなあ。なんとなく自分が動けなくなるぐらいまではぎりぎり保たせられるかな、なんて思っていたこともあるんですけど、最近は難しいかなって思うことのほうが多くて。身軽にした方がいいんじゃないか、と思い始めたのもそれと関係していると思います。

 

うちは組合に入ってなかったから、どこかでぱたっと誰も本を持ってきてくれなくなったら、売る物がなくなっちゃうじゃないですか?そんなこと絶対ないんだけど、こんなに在庫を抱えていることの一つは、しばらく買い取りが止まっても大丈夫、っていう安心感みたいなところがずっとあったんです。でも買い取りの量自体、減るどころか増える感じですし。ぼくは基本的には楽観的なので、自分がこの仕事を楽しんで、その楽しい気持ちがお客さんに伝われば「何とかなるんじゃない?」みたいな気持ちがどこかにはあるんです。だけど、ふと立ち止まって「大丈夫かな?」って自問すると、「大丈夫だよ!」とはならない、っていう感じですかね。

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