古書ほうろう×百年 対談
新刊・古書問わず、多くの書店が集まる谷中・根津・千駄木の通称「谷根千」エリア。
この地域で多くの本好きに愛されるお店、古書ほうろうさんが、古書組合に加入されました。20年目の決断、お店のこと、市場のこと、そして、将来の事をお聞きしました。
(左)広報部 樽本樹廣(古書 百年) (右)古書ほうろう 宮地健太郎
2018年8月24日 古書ほうろうにて
「古書ほうろう」のはじまり
広報 まず、お店のオープンはいつですか?
宮地 この店のオープン自体は1998年ですが、その前に別のオーナーの元で、3年くらい同じ場所で働いてました。オーナーのおじさんは古紙回収業が本業で、なので本も集まってくるじゃないですか。それで「古本屋もやりたい」ということになって、縁のあった当時20代の男女が7、8人集められて。その後いろいろあって98年に4人で独立して「古書ほうろう」という名前になりました。
広報 店名の由来は?
宮地 みんなでどういう名前にしようかと案を出し合って、「ほうろう」という名前はぼくが出しました。小坂忠さんの『ほうろう』っていうレコードが大好きで、そこからとったのですが、広義には「さまよい、さすらう」の「ほうろう」でもあります
20年のキャリアと、「今」組合に入ろうと思ったきっかけ
広報 20年のキャリアがあるほうろうさんが、どうして今、組合に入ろうと思ったのでしょうか?。
宮地 昔からずっと興味はあって、でも興味と同時に「縁はないな」という気持ちもあって。ぼくたちがここで古本屋を始めた頃は、組合の古本屋さんはもちろん、同業者に一人も知り合いなんていなかったので、そもそも「どうやったら入れるか」もわからないじゃないですか。当時はインターネットもなかったし、経験もなかったから、値段をつける時も「えいやっ!」ってつける、という、のんびりした時代でした。それから少しずつ知り合いも増えていって「その気になれば入れるのかな」って気になったのが2004、5年辺りだったと思います。
大きかったのは、中山さん(稲垣書店・荒川区)の店の棚をうちに持って来ちゃいましょう、っていう催しをやったことですね。稲垣書店の映画資料や映画本、ポスターを大量に運んで、二ヶ月ほどここで展示販売をしたんですけど、なんでそういうことになったかというと、すでに休刊しちゃいましたけど『谷中・根津・千駄木』という地域雑誌がありまして、それをちょっと遠いけど稲垣書店でも扱っていたんです。版元である谷根千工房の山崎さんという方が映画好きで、中山さんとも親しくて。で、ちくま文庫で中山さんの本が出たとき、ぼくが店のサイトに書いた感想文を中山さんに見せてくれたり。「組合に入っていない若い古本屋だけど、中山さんのファンで」って紹介してくれて、それがその催しにつながって。期間中何回かイベントをやったのですが、その中の一回が、石神井書林さん、月の輪書林さん、なないろ文庫さんと中山さんがここでしゃべる、っていう会で。
広報 黄金メンバーですね。
宮地 そうなんですよ! 終わった後に近所の居酒屋で飲んだんですけど、その時、田村さんが「楽しいよ、組合。絶対入った方がいいよ」って言ってくれて。
具体的にどのくらいお金がかかるのか、っていう話も初めて教えてもらったのかな。だから、もしその時に「組合入ります!」って言えば入れてもらえてたと思うんですね、お金のことはともかく。ただ、その頃は四人で店をやっていたし、すべての物事を週に一度会議をして決めていたので、何かをノリで決めるということはあり得なくて。誰かが反対したわけでもないんですけど、でも積極的に「ぜひ入ろうよ!」みたいなところまではいかなかったんですね。
ちょうど古本屋を始めて10年ぐらいで、自分たちが売りたいと思うような本もそれなりに入ってくるようになって、本自体は完全に地元の中で回るようになっていたんです。「この町で買ったものを、この町で売っていく」ということにもすごくやりがいというか、意義を感じていたので、そこでわざわざ組合に入らなくても「ぼくたちはここで独立してやっていくからいいんだ。むしろここで回していくことの方が大事なんだ」という気持ちでやっていたわけです。「不忍ブックストリートの一箱古本市」も始まっていろいろワサワサしていたりで、今思うと、その頃が一番売れていたのかな。あとはどんどん売上が下がってきて。2010年に古書信天翁の二人が独立して、完全に夫婦二人になって。今回組合に入ることを割とスパッと決められたのは、二人で決めればいいだけだから、ということだったんですよね。
それで「どうして今、組合に?」っていう話なんですけど、一つは本当に、にっちもさっちもいかなくなって、ってところがあって。本の値段はどんどん下がっていくのに、入ってくる本はどんどん増える。そのうえ、店のバックヤードには、10年、15年前に買い取ったまま、もはや自分でも何を買ったか憶えていないような本がたくさん積まれているわけです。今の働き方を続けていたら、これらは絶対に日の目を見ない。日々入ってくる本を整理して出して、それでもなにかしら溜まっていくのに。だから、このままじゃ無理だなっていうのがあって。
ここの本棚は、この町に住んでいる人たちが作ってくれた棚でもあるんだ、という喜び
宮地 ぼくは今年の4月で50になったんですけど、そろそろ「どうやって閉じていくのか」っていうことも考えていかないと、せっかくこれまでいろんな方に譲っていただいた本が、完全に無駄になっちゃうなと。組合に入る以外に持って行き場はないなと思いました。実際的な理由はそれが一番大きいです。
あと、それと関係したことですけど、この場所にいつまでいられるかもわからない、というのもあって。毎月家賃を払っていくのはやっぱり大変だし、何か不測の事態があるかもしれない。でも、どこか別の場所、もう少し身の丈にあったスペースなり家賃なりの場所に移るにしても、今のこの状況だと移れないんですね、量が多すぎて。だから店にあるものを少しずつ整理して減らして身軽になりたい、っていうことも考えました。
もう一つは、始めに言いましたけど、せっかく古本屋になったのに、しかも割と近くに古書会館もあるのに、全然何も知らないで一生を終えるのはもったいないなあ、っていうのも大きかったです。信天翁の二人も独立したとき組合に入りましたし、「ぼくも見てみたいな」っていう純粋な気持ちはありました。ただ、なんかちょっと今さら入るのも気恥ずかしいし、格好悪いというか、ばつが悪いなという気持ちもあって(笑)。中山さんに相談にいったら「全然いいよ」みたいな感じで、それで思い切りました。
広報 最初に話された地域のなかで完結していくこと、回していくことっていう考えはクリアできましたか?整理することに対して。
宮地 初めてみえるお客さんに、ふとした会話のなかで「うちは組合に入ってない」ってことをお話しすると、みなさんびっくりされるんですよね。それで「ここにある本は、この辺に住んでいる人たちが持ってきてくださったものなんですよ」っていう話をするんです。店をやってるのはぼくたちだけど、ここの本棚はこの町に住んでいる人たちが作ってくれた棚でもあるんだ、ということが大きな喜びだったんですよね。なので、それが無くなることに対しては、「残念だな」っていう気持ちがありました。ただ、じゃあ市場で買った本がうちに並ぶようになったのか、というと、じつは全然落札できてないので、その部分については杞憂だったというか(苦笑)。基本的にはこの先も、うちに売りに来てくださった方の本が並ぶことになると思います。
逆に、今回、出品するようになって知ったんですけど、市場では、買った人は誰から買ったかはわからないけど、売った人は誰に売ったのかがわかるじゃないですか。これまで縁もゆかりもなかった神保町の老舗に、うちにあった本が流れていって、そこでどうなるのかはわからないけど、ともかくそういう風に循環していくのが目に見えるのはすごく新鮮で。うちじゃ絶対売れないものや、お客さんから買ってずっと並べていたけど結局売れませんでした、という本を、また仕舞い込んでもしょうがないし、だからといって捨てるには忍びないし。最終的に難しいものでも市場に出せば然るべき所に行くっていうのは、凄いことだなあと。精神的にもほんと助かります。
*****
宮地 今、本を売りたい人が多いですよね。でも「大量の買い取りがあるんですけど」って言われても、ほんとに大量だとうちは受けられないんです。今までは無理無理で受けてきたんですけど、その都度どかっと在庫が増えて、やっぱりもう無理だなっていう気持ちもあって。今回、組合に入ってみて「物凄く大量の買い取りでも受けることができるな」っていう安心感はありますね。今は毎週ちょっとずつでも出品に出かけて、市場にも組合にも体を慣らしていく期間かな、と思ってます。ようやく、ちょっと緊張しなくなってきました(笑)。
広報 緊張しますか?(笑)
宮地 緊張しますねぇ(笑)。最初に「今月の新加入者です」って、総会みたいなところでご挨拶したんですけど、目の前に古本屋がずらーって並んでいて「あぁ!知り合いがほとんどいない!ここ20年くらいの人生で一番のアウェーだ」とか思って。ただ、そういう緊張はするんですけど、全然面識のない方でもわからないことを聞くとすぐに教えてくださるし、そういう意味では同業者同士の緩やかな、シンパシーとまでは言わないけど、そういうものはあるのかなって。ただ、ぼくも人見知りだし、古本屋も人見知りな人がけっこう多そうだし、全然知らない人といきなりおしゃべりするというのはなかなかないけど、少しずつやっていけるんじゃないかなみたいなことは思って。あとは、市会の一日研修っていうのが、すごくよかったです。水曜日の東京資料会に行ったんですけど、一日の市場の流れがとてもよくわかりました。
広報 組合としては「市場の担い手をつくるため」っていう目的が一応あるんですけど、どこかで修行されて独立して、組合のことよく知っているよ、という以外の方も多くなってきたのでやり始めたんです。
宮地 一日体験をしたあの日に、本当にたくさんの古本屋さんたちが、組合を維持していくために働いているんだなっていうことを実感しました。「いよいよ入るぞっ」ってなった時、文京支部長の港や書店さん(当時)に挨拶に行ったんですけど、組合に入るとどういう仕事をしなければいけないのかってことをお聞きして。「とにかく仕事が回ってくるよ、とくに文京はちっちゃいから。去年入ったBOOKS青いカバさんも、もう今年やってるよ」って。そりゃそうだ、これだけのものを回していくには、いろんな人が何かしらやっていかないと、回っていくわけないよなって思いました。
広報 それは嫌じゃなかったですか?
宮地 「嫌じゃない」というか、入るまでは「店も大変だし、そんな何かする余裕なんてないよな」っていうのが正直なところだったんですよね。でも入って、見てみて、「こりゃまぁ、しょうがないな」というか、「誰かがやらなきゃ回らないんだから、そこは全然いいんじゃないかな」って見方が変わりました。自分はずっとこの店だけで仕事をしてきて、そういうことを知らなかったので、多くの古本屋さんが、自分の店以外でも、色々な形で仕事をしているってことを知れたのは良かったのかなって思ってます。
これがうちの店に並んだらすごくうれしいな
広報 組合は相互扶助が基本的な考え方で、市場にしても、出品してくれるのも買ってくれるのも古本屋だし、助けてもらってるんですよね、実際。市場で入札は?
宮地 いやあ、それが。このインタビューのお話があって、お会いする前に一度ぐらい落札したいな、と思ったんですけど、なかなか落ちないですねえ・・・。普段の買い取りより高く入れないと落ちないのに、自分がそういう体になっていないというのが一つと、あと、うちにめったに入ってこないようなものについては、純粋に相場がわかってないところもあって、だから落ちないです。この前の資料会かな、1960年代位の時刻表がいっぱい出ていて、「あぁ、これがうちの店に並んだらすごくうれしいな」って頑張って入れたんですけど、なんかもう全然お話にならないくらいの額で落ちて。まあ目の保養にはなるし、見ておいた方が為になるのは間違いないんですけど。むしろ「これがこの値段で落ちるんだ!」っていうのにびっくりしてばかりです。
広報 そうですね、僕も店で売れなかったものを出して、店での売り値より高く落札されることもありましたからね。
宮地 そういうこともあるんでしょうね。「どうやって売るのかな?」とは思いますけど。だからなかなか買えませんが(笑)ただ、楽しいのは楽しいです。
広報 加入されていない人たちに勧められますか?入った方がいいよって。
宮地 在庫をかかえているんだったら、入るといいんじゃないかなと。ただ「店の棚をもっと彩り豊かにしたい」という理由だったら難しいんじゃないかなとも思いました。でも、これから始める人はやっぱり入った方がいいでしょうね。
広報 これから組合員がどんどん減少していくと思いますが。
宮地 そうなんですね、それも全然知らなくて。今、組合が外に開いていこうとしていることはぼんやり感じていたんですけど、元々はそうでもなかったですよね。「別にそんなに人を増やさなくてもいい」みたいな気持ちが根っこにあるのかなって思っていたんですけど、毎月送られてくる機関誌の「組合員が減っている! 新規加入者を増やさねば!」といった記事を読んで「そうなんだ!」と。でも一方で、誰でも彼でも入れるわけにはいかないでしょうし。組合としては増やしたいんですよね?
広報 そうですね。組合員がいないと市場が充実しないし、僕らの商売も先細りしていってしまうので。どう、よりよい組合にするのか、というところでやっぱり組合員の確保は必要かなと思います。
自分のなかのワクワクする気持ちを切らさないために
広報 バックヤードが整理されることで良い影響が出てきそうですか?
宮地 出てくると思います。この仕事はすごく楽しい仕事だと思いますし、人にも「楽しいです」って言っちゃっうんですけど、何が楽しいのかっていうと、毎日の仕事はルーティンなんだけど、そこで手にするものは全然そうじゃなくて、しかもそれが突発的にやってくる。そこがすごく魅力だし、飽きないところだと思います。でも、20年もやっていれば少なからず惰性で仕事をしてしまう部分も出てくるじゃないですか。そういうなかでのカンフル剤にはなるかな、と。もちろん良い本を発掘できればそれも良い影響ですけど、そういう目に見えることじゃなくて、自分のなかのワクワクする気持ちを切らさないために、すごくよい方向に働くんじゃないかなって思います。それは物理的にバックヤードの本がなくなることよりも大きいかもしれないなって。
広報 それはすごく大事ですよね、気持ちの問題ですから。ちょっと組合についての話からは外れちゃいますけど、10年後、20年後、どんなことをイメージしてますか?
宮地 正直言って、あまり明るい未来は想像していなくて。
広報 それは全体として?業界として?
宮地 うーん、この国全体としても全然ですけど、古本屋っていう仕事の未来が明るくないっていうのはすごく思います。やっぱりインターネットの影響が大きくて、夢はなくなりましたよね。「1円でも安くして売る」みたいな、そういうことに関わらずにやっていきたいんだけど、関わらずにはいられない部分ももちろんあって。リアルで店をやっている楽しさとか、意味っていうのは、お客さんがそこで自分の知らないものと偶然出会って、そこからまた何かが広がっていくっていうのが大きいと思うんです。でも、今はその場でスマホを取り出して相場を調べて高いと買わない、そういう世の中でしょ?しんどいなぁ、って。心折れますよね。この前初めてみえたお客さんが「昔と比べてこういう店も少なくなったし、こういう古本屋大事だよね。美術館みたいだよね」みたいなことを仰って。その言葉自体はありがたいんですけど、見せるだけじゃ食べていけないし、買ってもらわなきゃいけないので。
この店はネットへの依存度がかなり少ない方だと思うんですけど、それじゃもうダメだっていうのもわかっていて。組合に入った理由には「『日本の古本屋』を使いたい」っていうのもありました。ただ、その一方で「お店で買って欲しい」という気持ちももちろん強くて。でも、この業界に限らず、お客さんが店でモノを買ってくれる、ということの未来は、この先好転することはないでしょうね。そういう意味での明るくない展望はあります。ともかく、「ここに来てもらいたい」ということと、「ここに売りたい!」って思ってもらいたいっていう、そのことだけを考えてずっとやってきて、途中まではそれでちゃんと回ってきたんだけど、もうそれだけでは難しいので、何か考えなきゃいけないんだけど…。未来を切り拓くような良い考えは今のところないかなあ。なんとなく自分が動けなくなるぐらいまではぎりぎり保たせられるかな、なんて思っていたこともあるんですけど、最近は難しいかなって思うことのほうが多くて。身軽にした方がいいんじゃないか、と思い始めたのもそれと関係していると思います。
うちは組合に入ってなかったから、どこかでぱたっと誰も本を持ってきてくれなくなったら、売る物がなくなっちゃうじゃないですか?そんなこと絶対ないんだけど、こんなに在庫を抱えていることの一つは、しばらく買い取りが止まっても大丈夫、っていう安心感みたいなところがずっとあったんです。でも買い取りの量自体、減るどころか増える感じですし。ぼくは基本的には楽観的なので、自分がこの仕事を楽しんで、その楽しい気持ちがお客さんに伝われば「何とかなるんじゃない?」みたいな気持ちがどこかにはあるんです。だけど、ふと立ち止まって「大丈夫かな?」って自問すると、「大丈夫だよ!」とはならない、っていう感じですかね。
普通のお店がかっこいいと思ってもらえるようなマジックを
広報 去年、都内のお店を巡ってもらうスタンプラリーをやった時、自分でも街の小さな古本屋さんに行かせていただきました。「しんどいんだろうな。将来どうするのかな」って感じたお店もいくつかあって。組合の広報理事をやらせていただいて「大丈夫だよ」って言えるようにする為にはどうすればいいか、「何かヒントはないかな」ってずって考えていました。
宮地 たぶん、みんな口に出して言わないけど、同じように大変で、でもその中で頑張っているんだなと思いますね。
広報 僕も初めて行くようなお店が多かったんだけど「面白いな」と思ったんですよね。普通のお店なんだけど、「悪くないじゃん。面白い、面白い」って。でも、そういう風に皆さんが思ってくれる訳じゃないことが、すごく難しいんだろうなとも思っていて。そこを「面白い、これがイイんだよ」って言えるようなところまで、どうやったらもっていけるんだろう。喫茶店も「純喫茶」って、ただの喫茶店に「純」とついただけなのになんか「格好いいな」って思うし、ただのコーヒーなのに美味しく感じちゃう、そんなマジックが起こせるようなところまでいかないかなぁって。
宮地 そういう魔法はないかなあ(笑)。全部の古本屋が無くなるとは思わないですけど。そもそも古本屋って今、増えてるんじゃないですかね?
広報 おそらく副業として開業する方は増えているかもしれないですけど、専業としては減っているんじゃないですかね。廃業していく方が多いから。業界、市場全体を良くするためには10年20年、本業として続いていって欲しいなって思います。自分の店だけだったら、もうちょっと長く続けられるだろうなって正直思います。でも、市場や組合が疲弊して、他がダメになった時に、果たして自分の店も長く続くのかな?って思うと疑問点があって。だから、業界全体を良くしないと結局、自分の店も良くなんないんだろうな、という実感はあります。
宮地 百年さんは自分のお店で買い取った本と市場で買った本の比率ってどのくらいなんですか?
広報 7対3くらいで、店でお客さんから買った方が多いです。よほど珍しい物じゃないと市場では買わないので。
宮地 それでもやっぱりそのように考えるんですね。それはこの2年間、広報のお仕事をされてより強くなったんですか?
広報 そうですね。自分のとこだけじゃダメなんだろうなっていうのはありますね。
いろいろ見させていただいた、っていうのもありますし。だから良くしていきたいなって思うんです。今回、ほうろうさんが組合に入ったことも、いい仲間が入ったみたいに感じて、すごく嬉しくて。
宮地 ありがとうございます。市場に行くと、当たり前ですけど普通にみなさんいらっしゃって。これまでお互いの店に行かないとなかなか話せなかった人と話す機会が増えたっていうのは、間違いなく入って良かったことの一つですね。この前も古書日月堂の佐藤さんと15分ほど立ち話をしたんですけど、とても大切な時間になりました。組合に入る前はそこには思いが至ってなくて、想像すらしてなかったんですけど、同業者のみなさんとお話する機会が増えそうなのは、ほんと良かったなって。
新しいお客さんに来てもらえるように
宮地 前に百年さんの司会で会館でやった座談会。じつは加入にあたって結構影響を受けました。特にほん吉さんの、一棚分丸ごと市場に売って、その分仕入れてくるという話は非常にインパクトがあって、「そういうことができるんだ!」ってびっくりしました。ロスパペロテスさんが出られると知って、じゃぁ行かなくちゃ!って軽い気持ちで行ったんですけど、聞いといてよかったです。
広報 2016年に古書会館でやったトークイベントに来ていただいた、ということなんですけど、ああいうのはやった方がいいと思いますか?古本屋が発信すること。
宮地 ぼくがよく憶えているのは、もう10年以上前になりますけど、会館でトークイベントとか、イベントをたくさんやっていた時期があって。中でも「アンダーグランウンドブックカフェ」なんかは普段、古書会館に来ないような人達を呼ぶ力にはなっていたと思うし、そういうことをあそこでやることにはすごく意味があると思います。ただ、何でもそうだけどそれを「決まり」にしちゃうと、誰かがその担当になって抱え込んでしんどくなっちゃう。だから気楽に、組合員で何かやりたい人があの場を使って「気楽になんでもやっていいんだよ」っていうムードを全員で共有できるようになればいいのかもしれないですね。
広報 組合員数を増やすのも大事ですけど、何よりお客さんを増やさなきゃいけないと思っています。それをどうするかっていうのがすごく大事ですよね。
宮地 この前機関誌でどなたかが「小・中学生の社会科見学で市場を見せたらいいんじゃないか」って仰っていたんですけど、そういうのはすごくいいと思って。やっぱり未来の担い手云々みたいな話をするんだったら、「こういうおもしろい仕事がある」ということを伝えるのはすごく大事だと思いますね。
広報 簡単なものから始めるのがいいなぁと思って。
宮地 そうですね。何かを続けるには「気楽にやれる」ということと、「義務にしない」ということがすごく大事だと思います。
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広報 うちの店も12年経って、最初の頃にいたお客さんのライフスタイルなども変わって、ちょっと店から離れちゃうこともあるんですけど、ありますか?
宮地 あります。あります、っていうか、どんなに通ってくださった方でも、引っ越されたら足が遠のくっていう大前提があるし、あと、学生時代から死ぬまで「古本命」な人もいるけど、そうじゃなくて「人生のどこか数年間で古本屋に通うのがとてつもなく幸せで大事だった」みたいな人もいるじゃないですか。そういう人が心境の変化で古本屋に行かなくなる、というのも普通にあることだし。お客さんが入れ替わっていくのは残念だけど受け入れています。でも、もちろんずーっと来てくださるお客さまもいらっしゃって、それはすごくうれしいことですけど。
広報 新しいお客様に来てもらうような仕掛けはしていますか?
宮地 そういうことはほとんど考えてなくて。イベントをするにしても、「これをしたらどうなる?」みたいなことは全然考えてなくって、基本は「自分が今興味があること」や「人との縁」、それだけなので。さっきから何度か言ったかもしれませんが、店主が楽しそうしていることがすごく大事だと思っています。
広報 多くの古本屋さんも楽しんでいると思うんですけど、それに売上が伴うかはまた別の問題ですよね。スタンプラリーでお店に行った時に感じたしんどさも、多分お客さんのサイクルがうまくいっていないか、止まっているのかなって思って。そこらへんで何かできることがあるのか、組合の問題じゃないのか。こういう話をアップするだけでも、何か効果があるのかなって願っているんですけど。
宮地 それはあると思います。でも何かあるかなぁ・・・。気楽に明るいことがやっぱり言えないなぁ。例えば、樽本さんがご覧になったお店を自分も見ていれば「自分だったらこうするのにな」みたいなことを思うかもしれないんですけど。うちはやっぱり色々なことに恵まれて、多くの人に助けてもらってきたっていう気持ちがすごく大きくて。一般論として何かっていうのはなかなか難しいな、あんま答えになってないですね。
明るくない未来で、どういう明るい未来があるんだろう
広報 明るい未来が見たいな、と思って。
宮地 見たいですよねぇ。この前、日月堂さんとお話した時も「明るくない未来で、どういう明るい未来があるんだろう」って話で。これは自戒を込めて言うんですけど、古本屋自身が自分の店での売値を通して、本それ自体の価値を貶めるようなことになっちゃってるじゃないですか?そうしないと売れないから、今、生きていくためにはそのやり方しかないからかもしれないけど、そのやり方には未来がない気がしていて。矛盾しているんだけれど。
たとえば、うちでいいなと思う本をネットで紹介しても、他店のサイトで買われるだけかもしれない。でも「この本はいい本ですよ、こういうところがいいですよ」という、自分には伝えられる、他の人が気付いていないような魅力を伝えていく、そういう心持ちが大事なのではないかと思っていてます。そんなのんきなことをやっていると潰れちゃうかもしれないんですけど。
広報 それはすごくよくわかります。もちろん全部の本には出来ないんだけど、いくつかはそうやっていて、それが本を守るということだけじゃなくて、自分をも守るということにもなるのかなと思いますね。安売り合戦とか、そういうことをやりたくて古本屋をやっているわけではないので。
宮地 そうですよね。でも、薄利多売で、ひたすら梱包して発送する人たちに「やるな」とも言えないですし。
広報 もちろん。
宮地 なのでそこは難しいと思うんですけど。今、自分たちがやっていることっていうのは、あまりいいことじゃないなあ、というのはいつも思ってます。だからといって値段をつけるときに一切ネットを見ない時代に戻せるかといったら、その勇気はなかなかないかなあ。
広報 難しいですね。2時間もお話を聞かせていただいてありがとうございました。とても有意義でした。




